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病院経営の効率化に資する「院内ロジスティックス」改善の「進むべき方向性」 - 医療,病院,コンサルティング,株式会社サイプレス

 

 

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病院経営の効率化に資する「院内ロジスティックス」
改善の「進むべき方向性」

 

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

■経営の視点で「院内物流」を認識している病院はごく少数

病院のロジスティクスの現状は、「医薬品や医療材料の動き」のみに注目しているケースが数多く見受けられる。たとえば院内にSPD室やSPD委員会を設置している病院でも、実際には「安価に物品を購入したい」との初期的なニーズ対応に終始している場合が数多い。
 同様の傾向は、医療機関のみならず、SPDを提供する事業者(社)側にも見られる。既存のSPD事業者は大きく「医薬品メーカー系」と「材料メーカー系」と「IT管理システムやソフトウエア系」の3つに区分できるが、いずれの場合も「サービス」の一環として物流管理を実施するパターンが多いため、医薬品や医療材料の動きのみの管理に留まる傾向にある。近年、倉庫管理や労務の提供等を通じて物流管理を請け負う事業者も増加してきたが、この場合も、結局は「システム導入」「倉庫管理」「配送請負」などに付随したサービスとして物流管理に従事することが多い。逆説的には、こうした個別分野の事業者が提供する“SPD”が「経営全体を包括しうる物流管理」ではないことが、サービスを受ける病院側が大局的に物流管理を意識する機会が少ない状況につながっていると言えよう。
 また、最近は大手商社などを中心に、物流管理サービスの提案も見受けられるが、大規模なシステムインフラ構築を要する場合が多く、また外注委託等の場合は「物流管理費」など新たな直接コストを病院側が負担することになる。これらコストを上乗せしても収支改善を図れるのは、前提に相当規模の購買活動がある場合のため、導入メリットを享受できるのは、多くの病床を持つ大規模病院、複数の病院を有するグループ、公立の病院群を管理する自治体等にほぼ限定される。具体的には、病床数が「300床以上」、あるいは、年間の物品購買額が「数億~数十億円」といった数値が導入の可否を計る目安として考えられる。

■ヒト・モノ・カネ―という経営の基本要素から「物流管理」の効果を検証すべき

病院経営の効率化に資する物流管理」をめざすためには、購買管理、在庫管理、消費管理を有機的に連動させ、理事長や院長のトップダウンで統率していく体制構築が理想型である。その意味でも、多くの病院にとっては、自院内の「物流」の定義自体を見直す姿勢を基本とし、重視すべきである。換言すれば、病院経営上の戦略(strategy)上の位置づけについて確認作業から取りかからなくてはならない。経営の基本3要素-ヒト・モノ・カネ-の観点では、事務用品等も含む一般消耗品、リネン、検査用の検体、滅菌処理を要する医療器具等、カルテ等、多種多様な「モノ」の流れはすべて物流であり、これらを総体的に検証しつつ、「ヒト」の流れ、「カネ」の流れと効率的に結合することが基本原則となる。
 この点についてわれわれのコンサルティング活動の場合は、「病院規模」「経営意識の浸透度」等の複数のセグメントから多角的に分析し、フェイズごとの具体的な改善項目を提示する。プロジェクト規模にもよるが、通常、最終的に経営トップに対して提示する約200項目のなかには、当然ながら物流管理に関連する要素も多々含まれる。「コンサルタント」という中立的・客観的な立場からは、従来には病院があまり踏み込んでこなかった」、ないしは「踏み込めなかった」物流管理の効率化、たとえば、「診断には必要のない検査や画像診断」「薬剤の見直しや切り替え」等も率直に指摘する。したがって医師を含む職員との議論を経て、現場の合意を得てうえで、クリティカルパスを含めた「医療の標準化」と「経営の最適化」に取り組む。 経営の本質的な部分から物流管理を徹底するうえでは、こうした人的マネジメントの範疇に含まれるべき要素にも、ごく当然に斬り込む必要性があることを経営者は認識すべきだ。

■DPC等と同じ考え方に位置する物流管理の徹底化

 将来的には、病院全体や各診療科における薬剤や材料の消費・供給状況を詳細に把握したうえで、医療行為に直結した新たな物流管理のあり方が主流になると予測される。われわれのコンサルティング活動も、その方向性を指向している。DPCや米国で導入されているDRG(Diagnosis Related Group)と同様に「原価管理」「類似行為のグループ化/標準化」を基本的な取り組みとし、最終的には、「疾病」「手術」「処置」を単位とした、ケースごとの薬剤投与量、物品消費量、要したマンパワーの数値化と、それにもとづく経営効率化を推進する。さらに実績値を集積したうえでベンチマークや平均値を割り出せば、その後の投薬や治療の「標準化」や「ベストプラクティス」の抽出も可能である。われわれは独自に約250種類の主要疾病について改善事例をデータベース化し、すでに病院に対する経営指導のなかで活用している。
 今後のロジスティクスは、こうしたハードウエア的にもソフトウエア的にも「物流管理の成果を医療行為自体へフィードバックできる仕組み」の構築が不可欠であり、われわれもそのためのコンサルティングを実践していく。

 



日本医療企画 発行 「Phase3」 2008年12月号より転載

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