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国公立病院の経営改善とは - 医療,病院,コンサルティング,株式会社サイプレス

 

 

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国公立病院の経営改善とは

 

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

国公立病院の赤字は相変わらず90%程度と見込まれ、多いところでは一般会計からの繰入金が数十億円に上っている。
事務職員の多くは3年程度で転勤するために、病院に関わる医療の専門知識を十分に習得せずに、また、医療経営の改善策を体験学習しないままに、業務に当たる。結局、経験不足で赤字経営を改善できないままに累積赤字を膨らましていく。
われわれが赤字病院のコンサルティングを行う際に、事務職員の職場を視察すると、事務職員は病院から離れた管理棟という別棟で事務作業を一日中行う場合が多い。こうした状況下、事務職員は医療現場でどのような業務が行われているのかを理解できないまま、日常の書類業務を遂行していくことになる。トヨタが日常の生産現場の改善と購買でコスト削減に繋げていくのと大きく異なる結果、国公立の病院の改善対策が遅れていくひとつの原因となっている。

国立の医療機関は独立行政法人として再出発したが、なかなか経営改善が進んでいない。医療現場でどのような業務と課題があるのかを理解するために、事務職員とともに、手術室、ICU、中央材料室を視察に出向くと、彼らはこのような現場に立ち入ったことがほとんどないという。
医師たちと面談をして薬剤や医療材料をどのような目的で使用しているのかを確認していくと、ガイドラインは徹底されていないこと、クリティカルパスは実質的に運用されていないことなどの実態が散見される。さらに、医師たちはコスト意識を持って、より安価な薬剤や医療材料の使用に努力していないことも多い。例えば、薬剤や医療材料がどの程度の価格や値引率で購入されているかさえも知らない。また医師が価格交渉に関与しようともしない。医師が協力してくれないから購入経費が下がらない、と他人事のように話す事務職員が実に多い。全ては税金という他人の金が投入されているからである。家庭で同じく赤字の場合に、支出を切り詰めることは確実に実施する。それは自分の金だからである。

国公立の病院に勤務していた医師が開業した途端に、徹底的に購入価格を低減できるように価格交渉にも関与する医師に豹変する。これは自分の金だからである。税金は、黒字を出すために様々な努力をした企業や個人から徴収されたものであり貴重な財源である。これを有効活用しようとしない公務員や独立行政法人の職員を見るとコスト意識は低いと言わざるをえない。
さて、このようにコスト意識のない職員に、意識改革を迫ることは容易ではない。最近、民間の活力を活用するという名目でPFIという医療自体は職員が行うが、薬剤・医療材料などの購入や委託業務の運営は特別に設立された企業が担う形態が増えてきた。この背景にはPFIによる経費削減が実現できたイギリスでの事例がこの5年程度で知れ渡り、日本での導入を促進したと考えられる。
最初の高知医療センターと近江八幡のPFIはうまくいかなかった。その原因は様々なことが言われているが、結局、PFIで医療自体を運営する職員にコスト意識がなかったことと、SPCで運営を担った企業に十分な病院運営のノウハウがなかったことである。
ただ、たとえこのようにうまくいかなかった事例があるにもかかわらず、引き続きPFIは利用されている。公立病院を赤字体質から改善する上で、現状の職員では改善ができなかった事実を見る限り、PFIはひとつの選択肢として活用されるのであろう。

また、たとえPFIを行わなくとも職員にコスト意識を醸成するためにできることは、全ての購入価格や値引率、契約金額などの情報を全職員に公開し、現状がいかに高コスト体質なのかを知らしめることである。職員が交渉してきた現状の納入価格と値引率に対して、他病院のさらに安価な納入価格と値引率を示すと、価格交渉の状況等を公開しようとしない職員が出てくる。どのような価格や値引率にもその結果を導く過程と活動がある。それを、他病院のような低い価格で購入することはできないと、最初から挑戦しようともしない職員が多くおり、残念である。

では、いくつかのコスト削減事例を紹介する。
国公立の病院では、調達品の価格がある一定の金額以上になると政府調達品目として扱われる。X線フィルムも政府調達品目として高額な医療材用のひとつである。診療報酬の改定により、画像検査の報酬が低下した結果、フィルムの購入価格も低下してきた。さらに電子カルテの浸透によりデジタル画像での確認が増え、フィルム現像は半減している結果、フィルム経費も半減している。したがって、医療環境の変化の中で、コダックやアグファという外資系メーカーの、マーケットシェアは25.2%(弊社のデータベースより)であり、富士フィルム等の国内メーカーが圧倒的なシェアで医療用フィルムを病院に納入している現状となっている。アメリカからの市場開放要求に応えるかたちでX線フィルムを政府調達品目にした経緯があるが、過去と現在では市場は大いに異なっているのである。

しかし、国立の医療機関ではX線フィルムを政府調達品目として、各病院で入札を行い購入しているものの、高い価格での購入となったままでいる。 一見、入札をした方がより安価な調達ができそうである。しかし、入札以外の一般の取引で値崩れを恐れる各メーカーは積極的に低い価格で入札しよとしない実態がある。

弊社のデータベースから国立医療機関での購入価格を調べてみると、定価からの値引率では、保険請求不可のF社のフィルム製品3品目は9.7%から12.4%の値引率であり、一方で、保険請求可能な他社のフィルムは約40%~60%の値引きとなっているので、一見かなり良い値引率で購入しているようである。しかしこの10年の診療報酬の改定により、下げられた償還価格からの割引率を見た場合、ほとんどの製品が償還価格から5%程度の割引率で購入している。購入時に支払う消費税を考慮すると、購買業務に伴う事務処理経費も捻出できていないのである。
国立医療機関以外の病院では、償還価格からの値引率は25%~40%当たりが平均的である。
この政府調達制度の下でX線フィルムを購入しなければならないのは、82の特定機能病院である大学病院、国立病院、ガンセンター、各種独立行政法人となった医療機関、都道府県の医療機関など多数の病院である。

弊社のデータベースでは国立医療機関でのX線フィルムの年間購入金額は1700万円~6700万円と医療機関の規模に影響を受ける。国立医療機関での政府調達はある意味で共同購買と考えれば、スケールメリットを活かして、値引率50%を獲得できたとすると、購入金額はほぼ半減する。
政府調達のX線フィルムの総額を様々な資料を調べてみたが記載されているものは見つからなかった。調達金額が1700万円を超えるものは政府調達の制度の下で扱われ、入札を実行しなければならない。少なくとも500以上の医療機関で1400万円を超えているものと仮定すると、85億円の税金が使用され、半額の42.5億円の税金が無駄使いされていると想定できる。消費税率を上げようとする前に、無駄な税の使用を改善するべきである。
政府調達の品目として高い買い物を続けることが国民のためになるとは到底考えられない。
政府としてもこのような品目を政府調達品目から除外するように検討することで病院自体が様々なコスト削減ができるようにすべきである。規制は決して、良い結果を生まない。

つぎに独立行政法人化した病院での具体的なコスト削減の事例を紹介したい。医師に依頼して循環器製品と整形外科製品を使用目的別に分類し、それぞれの分類ごとに2社程度のメーカーの製品選択が可能かを確認し、それらメーカーに採用品目を絞り込むことにした。絞り込む前には、メーカー数はそれぞれ7-8社であった。これらの製品群を選んだ理由は、院内の支払金額の80%を占めており、品目数の割りに、支払経費が多いからである。

今まで、病院は納入業者を競争させることに注力していた。しかし、これらの納入業者は、製造メーカーの販売代理店企業であり、経常利益率はほぼ 1%前後と低いので、病院から大幅な値引きを要求されても実現できるようなレベルにない。一方でメーカーは経常利益率20―27%程度で経営している。したがって、メーカーの絞込みによる、特定のメーカー製品の使用量増加に対する値引率の獲得を目指すことがより有効である。
病院は現状使用している材料の納入価格を交渉して、経費を下げようと安易に考える。誰が取引金額と利益減少の交渉に積極的に関与するというのか。病院自体がこのようなメーカー絞込みによる経費削減といった努力をしないで、単に価格低減の要求のみを実施するのでは効果的ではない。
さて、使用製品の絞込みによる価格交渉の活動によって循環器製品は15-20%程度の値引率であったものが35-40%となり、整形外科製品も10-15%の値引率が25―30%に変更となった。
結果、関東の特定機能病院では、3ヶ月で3000万円以上の削減が実施された。国公立の病院は1000病院以上有り、同様な改善を1000病院で実施すれば300億円の改善が可能となる。

一方、どの程度の値引きとコスト削減効果があるか、それらの情報を院内で公開しなかった病院では、同じ期間(3ヶ月)に40万円の改善効果となった。情報の公開した場合に3000万円の改善、情報公開しないで職員に意識付けができなかった場合の40万円の改善と、効果は大きな違いとなって現れている。情報公開を実施する職員と実施しようとしない職員との差が、このように改善金額の大きな差となって現れてくるのである。
要は、既に述べたように、全職員があらゆる情報を開示・共有することにより、高い意識を持ってコスト改善を促進することが大切なのである。

日本医療企画 発行 「Phase3」 2009年2月号より転載

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