雑誌掲載情報
入院患者獲得の受難時代とDPC
株式会社 サイプレス
代表取締役 伊藤雅教
DPC包括制度に意思表示した病院は3年目にしてすでに240病院を超えた。日本医療機能評価機構も同様であったが、診療報酬に組み込まれるまでは、ほんのひと握りの医療機関が受審しただけだった。そこで特に国立医療機関のみで運営が開始されることが多いが、いったん診療報酬に組み込まれると一気に拡大する。
さて、DPC包括制度下では、他の優秀な病院と比較(ベンチマーキング)したいとの要望が多くなる。たとえば同じ疾病の在院日数を優秀な他院と比較したいという要望である。収入、経費、利益を分析すると、赤字の場合が多々ある。それを解消するには検査、投薬、手術病棟管理などさまざまな改善ポイントがあり、その体験学習を病院職員に実施すると、「この患者は特別であった」とか、「カルテには十分に記載しなかったが感染が疑われたケースだ」という話になり、それだけでは結局何も改善がされないという。
海外の事務部門のディレクター(日本では部長クラス)であれば当然、データを見せて改善を要求するが、なぜか日本の事務部門ではそれができないという。 ある病院(A病院)で、コンサルタントが実際に医師たちに改善のポイントを指摘し、改善を実現して見せた。すると、「それは外部コンサルタントだからできるのだ」と言う。そこで比較のために、A病院で在院日数が12日である症例が、優秀なB病院では7日にとどまっているとのデータを見せる。治療成績も内容も、B病院とさほど変わらないので、A病院では、病床稼働率を維持するためにこうなっているのが明白である。
さて、1カ月の退院患者の3分の1をベンチマークして比較したところ、B病院の在院日数は6日なのに対し、A病院では11日であった。その差5日。試算では、もしもこれら3分の1の患者の在院日数がB病院と同じ6日になるように体制を整えた場合、A病院では毎月200人以上の新患の獲得が必要という結果になった。
在院日数6日であれば、欧米、アジアの急性期病院の在院日数と同程度になる。やっと国際的な比較ベンチマーキングができるかと思いきや、さにあらん。この5年間の改善で毎月200人の入院患者がやっと獲得できるようになったばかりで、さらに200人の新規入院患者の獲得は非常に困難との認識となった。1カ月すべての退院患者を比較すると1,000人以上の患者を新たに確保しなければならなくなる。とすれば、近隣の500床規模、在院日数15日の病院の患者をすべて奪うことと同じになる。 これがDPCを導入した240病院で進むと、それぞれの病院に隣接する数百床規模の少なくとも240病院で、患者獲得が困難になる。
それでは、患者を奪う側のDPC病院はどうか。入院患者には、外来患者から入院に移行する患者、救急患者として来院し入院へと移行する患者、紹介患者として来院し入院に移行する患者の3通りがある。質の高い医療を提供している病院であれば外来患者は増えるし、救急患者も増えるであろう。したがって、これらの患者から入院に移行する患者の比率は、何も手を打たなければ変わらない。たとえば1,000人の患者が来院し、そのうち10%が入院患者に移行するのであれば100人であり、2,000人になれば200人になるはずである。外来と救急の患者を1,000人から2,000人と倍増しても入院患者は100人しか増えない。
さらに900人を獲得するには、紹介患者から得るしかない。紹介患者500人の20%が入院患者に移行すると100人である。900人を獲得するには4,500人の紹介患者が必要となる。患者を急激に吸い寄せている病院に、近隣の病院が現状の5倍の患者を紹介するとはどう考えても現実的ではない。患者を新たに1,000人獲得するのが無理ならば、おそらくダウンサイジングするしかない。DPCを推進する病院自体に待っているのは、患者を獲得できない限り病床の削減を決断するしかないという現実だ。日本から、1,000床規模の急性期病院や大学病院が消える日が来るかもしれない。
株式会社日本医療企画 発行 「Phase3」 2005年5月号より転載