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ニュース・コラム - 医療,病院,コンサルティング,株式会社サイプレス

 

 

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ニュース・コラム

雑誌掲載情報

認知症のための感覚調整室の取り組み
国内と海外の事例その2

 

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

前回に引き続き、感覚調整室について具体的にご紹介します。

【感覚の刺激とは何か?】
 人間は6種類の刺激を受けながら生活をしている。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚と動き、に対して6つの刺激の情報を脳に送っている。もし刺激としての情報が多すぎるなら、簡単に疲れてしまうのも事実である。
 6種類の刺激は人が生活を送るうえで必要であることと、健康で良好な生活を送るうえでも重要であると認識されている。
 高齢者で肉体的にも認知的にも制限があり、自身ではこのような刺激を受けることができない場合には、複数の感覚刺激を得られるようにサポートするのがよいとされている。

 適度な感覚刺激はストレスの解消や退屈さの解消に役立ち、活動とともにコミュニケーションを促進し心地よさと落ち着きをもたらす。

 感覚の刺激では視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚や動きの6種の刺激が大事である。
 (例えば、空間認識や方向感覚では、どの方向にどの程度の速さで動いているか)

 どの程度の感覚への刺激が適当であるかは個人差があり、感覚への刺激を求める人か避ける人かによっても異なる。感覚への刺激を求める人では、よりたくさんの感覚的刺激に順応するので、 刺激が少ない場合は自身で刺激を得ようとする。例えばそのような人は、TVの接続を外して大勢の部屋に持っていくなどで刺激を増やそうとする。
 逆に、感覚への刺激を避ける人では、その環境自体の刺激が多すぎると感じる場合があり、その時はその場から移してあげるとよい。例えば、その建物から離れることや誰かほかの人と話をできるようにしてみるのもよい。
 そのために、感覚室には以下のようなツールキットを用意しておくとよい。

 

 

誰しも、実世界では五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、臭覚)の刺激を受けた生活をしているのだが、 刺激が多いと人のたくさんいるショッピングセンターのようにうんざりしたり、刺激が少ないと興味を失ったりする。
このガイドラインでは、適切な「感覚調整」が、よりよい実生活を送るうえでも役立つと報告されている。
肉体的な衰えで、さまざまな刺激を受ける機会が減ってしまう高齢者が、 つまらなくなってしまうことに対する予防や、コミュニケーションの改善に効果を期待できる。以降、複数回にわたり、海外での取り組み事例と感覚調整の実際の部屋作りや対応策の具体例を紹介したい。




【認知症ケアに感覚室がもたらす効果とは】
 感覚室(Sensory room)は、スノーゼレン(Snoezelen)ともMSE(Multi Sensory Environment)とも呼ばれ、 コントロール下で、感覚(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚や動き)を刺激してくれる場所で、多様に感じられる体験を楽しめる空間のことである。
 刺激を増やすのも減らすのも、治療目的によって調節され、また本人の興味の度合いによっても調節される。 そんな空間を持つ部屋は、物品をどう配置するかによって、本人への刺激を与えることにも落ち着きを取り戻すことにも使うことができる。

 この感覚室のコンセプトはオランダで1980年代から始まった。最初のころ、MSEは身体障害を学ぶための、大人のレジャーとして使われていた。 現在では自閉症・頭部外傷・脳卒中のように視覚・聴覚や身体の障害を持つ人にも使われている。MSEは身体の障害者が障害からはなれて活動できる場を提供でき、 ケアワーカーや家族やが本人へのケアをする場合に利用できる。

 今までのMSEでは工業製品を使い刺激を提供してきた: バブルが噴き出る柱、色つきの光学ファイバー(視覚用)、CDプレーヤーや音響システム(聴覚用)、アロマ芳香(嗅覚用)、ウォーターベッドや振動椅子(動き用)。
以下の2つの事例は実際にこの目的のために作られた部屋である。左はイギリスの例、右はオランダの例




MSEや感覚室が認知症に対して楽しさとリラックスをもたらすことが、研究と事例によって明らかになっている。 
しばらく感覚室で過ごすと、認知症後期の人の気持にも行動にも良い変化が表れ、また、周りにも興味を持つようになってくる。職員にとっては、このような改善が、利用者と毎日の業務に役立つと感じることができる。 
 しかしながら、感覚室が期待通りの効果をもたらさなかったという理由で、使用を中止したという報告も一方である。理由として考えられるのは、空間の設定の仕方やデザインに問題があったか、どう使うかをあまり検討しなかったからであろう。そのために認知症に使われなかったりしている。

 

雑誌掲載情報

認知症のための感覚調整室の取り組み 国内と海外の事例

 

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

海外では、認知症患者や施設利用者の興奮や不穏状態に際して、感覚刺激を取り入れた「感覚調整室(Sensory Modulation Room)」 を利用して、リラクゼーションを図る手法がとられている。  コンセプトは、人間の五感を刺激する部屋をアレンジして、興奮や不穏状態に陥った患者や施設入居者を
リラックスさせて落ち着かせる。 あるいは他人とのコミュニケーションをとらなくなり、じっとしたままになった方の五感を刺激して、認知症が進むのを予防することである。

日本国内では独居老人も増え、認知症の患者が増大することは厚生労働省の報告でも明らかであり、病院では、認知症患者の受入によって、 興奮や不穏状態になると他の患者の治療の妨げとなることも多く、認知症患者の受入に対して積極的な医療機関はそう多くはない。また老人保健施設や、老人ホーム、高齢者専用賃貸住宅でも、同様の理由で、興奮状態になった利用者の対応には苦慮しているのが現状である。 その他、老々介護を在宅で実施している高齢者にとっても、認知症対策は切実な課題となっており、対応策の事例は今後の高齢者社会にとって役立つものと考える。

国内においては、国立精神・神経医療研究センター病院 医療観察法病棟で、平成22年4月より感覚調整室を導入し、その効果を研究している。 その詳細な内容は以下のサイトで見ることができる。
    http://www.e-rapport.jp/team/action/sample/sample13/01.html
この施設での取り組みは国内初であり、感覚調整室を設置して、認知症の対応策として取り組む施設は、まだまだ少ないようである。

海外では様々な取り組みと臨床的な効果の研究が進んでおり、今回は、イギリスの KingstonUniversity, University of Southampton, Art & Humanities Research Councilなどが、2013年に研究としてまとめたガイドラインを紹介する。 これは、認知症患者に対して、多数の施設での導入事例を元に、実際の五感を刺激する実例が多数紹介されており、大いに参考となる。
このガイドラインはhow to make a sensory room for people living with dementiaとしてまとまられており、以下のサイトから無料でダウンロードすることができる。
    http://www.southampton.ac.uk/mediacentre/news/2014/oct/14_194.shtml#.VHP0wo0cSrQ

例えば、認知症に対するレベルを分類し、そのレベルに応じた五感刺激の方法を設定している(下表)。

初期の認知症 中期の認知症 後期の認知症
・どのような課題にも集中できる ・個別の課題には集中できる ・五感の刺激には反応する
・レシピがあればケーキを作れる ・材料を混ぜることができる
・卵を割れる
・小麦粉をふるいにかけられる
・出来立てのけーきを味わえる
・調理中ケーキのにおいをかぐ
・鉢植えができる ・花瓶に花を入れられる
・掘った土に花を入れる
・花に水をやる
・土いじりができる
・花を束ねる
・誕生日カードをつくる ・型通りに切る
・同じ色のティッシュをまとめる
・誕生日カードに貼り付ける
・ティッシュを丸める
・テンプレートを分ける



誰しも、実世界では五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、臭覚)の刺激を受けた生活をしているのだが、 刺激が多いと人のたくさんいるショッピングセンターのようにうんざりしたり、刺激が少ないと興味を失ったりする。
このガイドラインでは、適切な「感覚調整」が、よりよい実生活を送るうえでも役立つと報告されている。
肉体的な衰えで、さまざまな刺激を受ける機会が減ってしまう高齢者が、 つまらなくなってしまうことに対する予防や、コミュニケーションの改善に効果を期待できる。以降、複数回にわたり、海外での取り組み事例と感覚調整の実際の部屋作りや対応策の具体例を紹介したい。

 

雑誌掲載情報

国公立病院の経営改善とは

 

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

国公立病院の赤字は相変わらず90%程度と見込まれ、多いところでは一般会計からの繰入金が数十億円に上っている。
事務職員の多くは3年程度で転勤するために、病院に関わる医療の専門知識を十分に習得せずに、また、医療経営の改善策を体験学習しないままに、業務に当たる。結局、経験不足で赤字経営を改善できないままに累積赤字を膨らましていく。
われわれが赤字病院のコンサルティングを行う際に、事務職員の職場を視察すると、事務職員は病院から離れた管理棟という別棟で事務作業を一日中行う場合が多い。こうした状況下、事務職員は医療現場でどのような業務が行われているのかを理解できないまま、日常の書類業務を遂行していくことになる。トヨタが日常の生産現場の改善と購買でコスト削減に繋げていくのと大きく異なる結果、国公立の病院の改善対策が遅れていくひとつの原因となっている。

国立の医療機関は独立行政法人として再出発したが、なかなか経営改善が進んでいない。医療現場でどのような業務と課題があるのかを理解するために、事務職員とともに、手術室、ICU、中央材料室を視察に出向くと、彼らはこのような現場に立ち入ったことがほとんどないという。
医師たちと面談をして薬剤や医療材料をどのような目的で使用しているのかを確認していくと、ガイドラインは徹底されていないこと、クリティカルパスは実質的に運用されていないことなどの実態が散見される。さらに、医師たちはコスト意識を持って、より安価な薬剤や医療材料の使用に努力していないことも多い。例えば、薬剤や医療材料がどの程度の価格や値引率で購入されているかさえも知らない。また医師が価格交渉に関与しようともしない。医師が協力してくれないから購入経費が下がらない、と他人事のように話す事務職員が実に多い。全ては税金という他人の金が投入されているからである。家庭で同じく赤字の場合に、支出を切り詰めることは確実に実施する。それは自分の金だからである。

国公立の病院に勤務していた医師が開業した途端に、徹底的に購入価格を低減できるように価格交渉にも関与する医師に豹変する。これは自分の金だからである。税金は、黒字を出すために様々な努力をした企業や個人から徴収されたものであり貴重な財源である。これを有効活用しようとしない公務員や独立行政法人の職員を見るとコスト意識は低いと言わざるをえない。
さて、このようにコスト意識のない職員に、意識改革を迫ることは容易ではない。最近、民間の活力を活用するという名目でPFIという医療自体は職員が行うが、薬剤・医療材料などの購入や委託業務の運営は特別に設立された企業が担う形態が増えてきた。この背景にはPFIによる経費削減が実現できたイギリスでの事例がこの5年程度で知れ渡り、日本での導入を促進したと考えられる。
最初の高知医療センターと近江八幡のPFIはうまくいかなかった。その原因は様々なことが言われているが、結局、PFIで医療自体を運営する職員にコスト意識がなかったことと、SPCで運営を担った企業に十分な病院運営のノウハウがなかったことである。
ただ、たとえこのようにうまくいかなかった事例があるにもかかわらず、引き続きPFIは利用されている。公立病院を赤字体質から改善する上で、現状の職員では改善ができなかった事実を見る限り、PFIはひとつの選択肢として活用されるのであろう。

また、たとえPFIを行わなくとも職員にコスト意識を醸成するためにできることは、全ての購入価格や値引率、契約金額などの情報を全職員に公開し、現状がいかに高コスト体質なのかを知らしめることである。職員が交渉してきた現状の納入価格と値引率に対して、他病院のさらに安価な納入価格と値引率を示すと、価格交渉の状況等を公開しようとしない職員が出てくる。どのような価格や値引率にもその結果を導く過程と活動がある。それを、他病院のような低い価格で購入することはできないと、最初から挑戦しようともしない職員が多くおり、残念である。

では、いくつかのコスト削減事例を紹介する。
国公立の病院では、調達品の価格がある一定の金額以上になると政府調達品目として扱われる。X線フィルムも政府調達品目として高額な医療材用のひとつである。診療報酬の改定により、画像検査の報酬が低下した結果、フィルムの購入価格も低下してきた。さらに電子カルテの浸透によりデジタル画像での確認が増え、フィルム現像は半減している結果、フィルム経費も半減している。したがって、医療環境の変化の中で、コダックやアグファという外資系メーカーの、マーケットシェアは25.2%(弊社のデータベースより)であり、富士フィルム等の国内メーカーが圧倒的なシェアで医療用フィルムを病院に納入している現状となっている。アメリカからの市場開放要求に応えるかたちでX線フィルムを政府調達品目にした経緯があるが、過去と現在では市場は大いに異なっているのである。

しかし、国立の医療機関ではX線フィルムを政府調達品目として、各病院で入札を行い購入しているものの、高い価格での購入となったままでいる。 一見、入札をした方がより安価な調達ができそうである。しかし、入札以外の一般の取引で値崩れを恐れる各メーカーは積極的に低い価格で入札しよとしない実態がある。

弊社のデータベースから国立医療機関での購入価格を調べてみると、定価からの値引率では、保険請求不可のF社のフィルム製品3品目は9.7%から12.4%の値引率であり、一方で、保険請求可能な他社のフィルムは約40%~60%の値引きとなっているので、一見かなり良い値引率で購入しているようである。しかしこの10年の診療報酬の改定により、下げられた償還価格からの割引率を見た場合、ほとんどの製品が償還価格から5%程度の割引率で購入している。購入時に支払う消費税を考慮すると、購買業務に伴う事務処理経費も捻出できていないのである。
国立医療機関以外の病院では、償還価格からの値引率は25%~40%当たりが平均的である。
この政府調達制度の下でX線フィルムを購入しなければならないのは、82の特定機能病院である大学病院、国立病院、ガンセンター、各種独立行政法人となった医療機関、都道府県の医療機関など多数の病院である。

弊社のデータベースでは国立医療機関でのX線フィルムの年間購入金額は1700万円~6700万円と医療機関の規模に影響を受ける。国立医療機関での政府調達はある意味で共同購買と考えれば、スケールメリットを活かして、値引率50%を獲得できたとすると、購入金額はほぼ半減する。
政府調達のX線フィルムの総額を様々な資料を調べてみたが記載されているものは見つからなかった。調達金額が1700万円を超えるものは政府調達の制度の下で扱われ、入札を実行しなければならない。少なくとも500以上の医療機関で1400万円を超えているものと仮定すると、85億円の税金が使用され、半額の42.5億円の税金が無駄使いされていると想定できる。消費税率を上げようとする前に、無駄な税の使用を改善するべきである。
政府調達の品目として高い買い物を続けることが国民のためになるとは到底考えられない。
政府としてもこのような品目を政府調達品目から除外するように検討することで病院自体が様々なコスト削減ができるようにすべきである。規制は決して、良い結果を生まない。

つぎに独立行政法人化した病院での具体的なコスト削減の事例を紹介したい。医師に依頼して循環器製品と整形外科製品を使用目的別に分類し、それぞれの分類ごとに2社程度のメーカーの製品選択が可能かを確認し、それらメーカーに採用品目を絞り込むことにした。絞り込む前には、メーカー数はそれぞれ7-8社であった。これらの製品群を選んだ理由は、院内の支払金額の80%を占めており、品目数の割りに、支払経費が多いからである。

今まで、病院は納入業者を競争させることに注力していた。しかし、これらの納入業者は、製造メーカーの販売代理店企業であり、経常利益率はほぼ 1%前後と低いので、病院から大幅な値引きを要求されても実現できるようなレベルにない。一方でメーカーは経常利益率20―27%程度で経営している。したがって、メーカーの絞込みによる、特定のメーカー製品の使用量増加に対する値引率の獲得を目指すことがより有効である。
病院は現状使用している材料の納入価格を交渉して、経費を下げようと安易に考える。誰が取引金額と利益減少の交渉に積極的に関与するというのか。病院自体がこのようなメーカー絞込みによる経費削減といった努力をしないで、単に価格低減の要求のみを実施するのでは効果的ではない。
さて、使用製品の絞込みによる価格交渉の活動によって循環器製品は15-20%程度の値引率であったものが35-40%となり、整形外科製品も10-15%の値引率が25―30%に変更となった。
結果、関東の特定機能病院では、3ヶ月で3000万円以上の削減が実施された。国公立の病院は1000病院以上有り、同様な改善を1000病院で実施すれば300億円の改善が可能となる。

一方、どの程度の値引きとコスト削減効果があるか、それらの情報を院内で公開しなかった病院では、同じ期間(3ヶ月)に40万円の改善効果となった。情報の公開した場合に3000万円の改善、情報公開しないで職員に意識付けができなかった場合の40万円の改善と、効果は大きな違いとなって現れている。情報公開を実施する職員と実施しようとしない職員との差が、このように改善金額の大きな差となって現れてくるのである。
要は、既に述べたように、全職員があらゆる情報を開示・共有することにより、高い意識を持ってコスト改善を促進することが大切なのである。

日本医療企画 発行 「Phase3」 2009年2月号より転載

雑誌掲載情報

手術室は「病院の大動脈」
効率運営は経営の最重要課題だ

急性期病院を中心にさまざまな病院経営のコンサルティングに携わっている株式会社サイプレスの伊藤雅教代表取締役は、手術室について「さまざまな部署が関わるだけでなく、経営面でも病院全体での比重がとても高いまさに『病院の大動脈』」と位置づけ、その運営の重要性を指摘する。そのポイントを同氏に語ってもらった。

 

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

■手術室の改革なくして病院経営の好転はない

株式会社サイプレスがコンサルティングしているDPC病院約30施設を対象に医業収益に関するデータを分析したところ、 入院による収益のうち手術を要する疾病が60%、手術日だけに限っても20%に達していたという。 患者一人当たりの金額に換算すると100万円弱にのぼる。一方、医療材料も病院全体のうち45%は手術室で消費されるといわれる。 このことからも手術室の効率的な運営が病院経営にもたらす影響はきわめて大きいことがわかる。 「手術の適用患者を集める取り組みが大前提ですが、件数を増やす前に手術室の非効率な部分を見直すことも欠かせません」と伊藤社長は強調する。

伊藤社長は改善する際のポイントとして「コスト管理」「運営」「物品管理」の3つを挙げるが、これらの取り組みはいずれも、 各診療科、あるいは部署で完結するものではないだけに、病院が主導的な役割を果たしていく必要があると指摘する。
大学病院や民間病院で長年にわたって手術部担当の看護師として活躍してきた同社コンサルタントの音谷多恵子氏は、 院長は麻酔科部長、手術部長、事務長、看護部長などが加わった委員会を立ち上げるなど、院長が積極的にリーダーシップをとり、 各診療科の協力を求める姿勢の必要性を訴える。さらに、“エビデンス”も不可欠という。 「掛け声だけで医師を説得するのは難しい。手術部で発生する収益、支出を算出したうえでデータ化し、それらの裏づけに基づいて説明するべきです。 手術部独自で会計ソフトを取り入れて術式ベースで収益・支出を算出するケースもあります。これは従来の業務の枠組みを越える取り組みですし、 手間もコストもかかりますが、それを差し引いても手術部運営は重要と認識すべきです」
「コスト管理」の場合、物品管理は事務部門に一任したり、あるいは外部業者に一度委託してしまうと、その後の運営は「丸投げ」してしまっていることが少なくない。 しかし、その価格が現場のニーズに見合ったものかどうかは、現場でなければ判断できないことが多い。 現場レベルがコストに対する問題意識をもって、診療部門・事務部門などと連携する姿勢が求められるのだ。

 

■作業工程の見直しや物品の標準化も

「運営」についてもチェックポイントは多いと伊藤社長は指摘する。まず、手術に要する時間。ざっと挙げても朝、予定通りに手術が始まっているか、 麻酔の導入時間を短縮できるか、病棟と手術室の連携を強化して予定通りに患者を入室できているか、 執刀医が時間通りに来るか、手術時間は予定通りか――などは、手術室の当人たちも気づいてはいても手が付けられないでいるテーマだ。「もちろん、手術中はさまざまな事態が起こりますから一概に予定時間がオーバーすることを問題視するわけにはいきませんが、 手術過程そのものを見直すきっかけとしても、時間のチェックは必要です」(音谷氏)

「物品管理」では、伊藤社長は「一概に『効率化』とか『患者のため』を振り回すのでなく、効率化が可能かどうかをきちんと議論し、見きわめていくことが必要です」と指摘する。

物品について伊藤社長は、①患者に不可欠で、かつ新技術を用いていることで患者を救う可能性を高めるもの、②縫合糸のように各診療科が使用しているものの、 ほとんど標準化が進んでいないもの、③包帯、ガーゼ、点滴セットなどの汎用品――と分けて検討することを提唱する。 ①は医療の高度化、患者を救う観点から効率化は難しく、また③も多くの病院では取り組んでいるケースが多い。 さらに①と③は費用面でもせいぜい25~30%程度で、ここを大きく効率化したところでコスト全体に与える影響は大きくない。
②こそ「最も手間のかかる部分で、かつ手をつけるべき部分」(伊藤社長)なのだ。縫合糸のように複数の診療科が異なる目的で類似した製品を使っているケースが 少なくない。「しかも、互いに他の診療科が類似品を使っているかなどわからないし、それを話し合う機会も意外とありません」(伊藤社長)

実際、ある大学病院では系列4病院で300種ほどの縫合糸を使用していたが、このうち3種類を統一しただけで数千万円のコスト削減につながった。 「さまざまな診療科がかかわってくるだけに面倒もありますが、やれば効果は絶大です。これは手術室全般に当てはまることだと思います」(伊藤社長)

 

日本医療企画 発行 「Phase3」 2009年2月号より転載

雑誌掲載情報

DPC病院の診療報酬改定とその対策

 

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

■増収と減収の分かれ道

今回の診療報酬の改定でのDPCの見直しでは、DPC分類ごとの報酬額と期間ⅠとⅡの短縮が大きかった。DPCごとに今次改定の報酬額で算定すると、サイプレスのクライアント病院で5000万円~3億5000万円程度の減収となるとの結果が出た。 また、医療材料と薬価の改定分を考慮すると更なる減収になるのではないかと各病院の事務長は浮き足立った。
3月初めに各病院に機能評価係数と調整係数の内訳が通達され、それぞれが1.0514~1.3386という係数になり、事務長は胸をなでおろした。ただし、この係数の違いだけで同じ医療を提供しても27%の差が出るわけで、本当にDPC病院に妥当な評価を与えているのかはなはだ疑問だ。
今回の改定では、係数を反映しても増収する病院と減収する病院の2つに分かれた。増収すると期待していたのに約1億円の減収となる可能性が高いところも出てきた。一方、増収すると試算された病院では、その額が予想ほどではなかったため早急に対策を実施するところと、悠然と構えているところに分かれている。 今回のDPC改定を診療科別に見ると外科、内科で特に減収している病院が多い。小児科や産婦人科でのプラス改定で増収に転じた病院は一部の病院のみであった。DPC分類別で減収となっている症例をリストアップすると、その額は数千万円~数億円となっていた。



■9つの対策

病院では、以下のような手を打ち始めている。
1. 2007年に比べて08年では大きく減収となるDPC症例をグループ化しリストを作成した。
2. そのリストから、減収金額の多い順と症例数の多い順に並べ替えたリストを作成した。
3. 減収金額の多い順のリストから減収となる原因を3種類に分類した。
 ・DPCの改定による期間ⅠとⅡの短縮と報酬額の減少に伴う減収
 ・DPC対応になっていないクリニカルパスのための減収
 ・最も投入した医療行為のコーディング間違いによる減収
4. DPCの改定による期間ⅠとⅡの短縮と報酬額の減少に伴う減収では、入院日数の調整と病床稼動額の試算を実施した。
5. DPC対応になっていないクリニカルパスのための減収では、パスの中身の注射・画像・検査・処置などの標準化を検討し、外来で実施できる検査・画像は外来で行えるようにした。
6. 最も投入した医療行為のコーディング間違いによる減収では、薬剤・検査・処置・手術ごとに何の治療目的で投入したかを分類する。また、その金額も算出し分類する。この後に最も医療資源を投入したはずに抜けている傷病名を確定し、医師と確認することとなった。
7. これらの徹底のための医局説明会を開催し、今回のDPC改定に対する改善策を発表する。
8. DPC改定による注意点と変更点を院内に配布する。
9. 患者と連携先の病院向けに、DPC病院での変更点をリストアップしたパンフレットを作成し、地域連携室と医事課受付での周知徹底を図る。


■大きな減収要因

さて、このような改善策を実施した病院で、臨床検査と画像を外来で実施するという対策について説明すると、医師から「外来ですでに実施しているので大丈夫である」との答えが返ってきた。しかしながら、外来で検査と画像を実施してから当日入院をすると、それは入院での検査と画像と評価され、DPC制度下では大きな減収要因になることを理解できていなかった。DPC制度の下では、入院前の別な日に外来で画像と検査を実施しなければならず、患者にもそれを説明をする必要がある。DPC制度は決して患者のためになるものではないことは、この点からも言える。
また、抗がん剤治療を実施している短期入院患者関連で軒並み大幅な減収となるのは、高額な薬剤がDPC日額で賄えないからである。いくつかのDPC分類で抗がん剤が対象外として出来高で算定できるようになったが、来院患者の抗がん剤治療は多種にわたっており、それぞれが大幅な減収となって病院の経営を圧迫している。
外来化学療法への変更を実施するには、看護師と薬剤師を配置しなければならず、現状の看護師不足と薬剤師不足の下では十分な対応ができない。さらに緩和ケア、疼痛管理患者でも大幅な減収となる。厚生労働省は、これらの患者自身に一部の病院へ通わせる苦労を要求しているとしか見えない。

 

日本医療企画 発行 「Phase3」 2008年6月号より転載

雑誌掲載情報

ジェネリック医薬品全盛の南米コロンビア

 

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

■3時間かけてとる豪華な昼食

数年ぶりに南米・コロンビアのブカラマンガ市に行ってきた。飛行機に乗っていた時間だけで17時間。結局2日間かけて現地入りとなるのも、地球の反対側の国だからである。赤道に近い国は今、夏。同市は標高1,300mにあるため、一年中25度前後の気温。夏の今は朝起きると22度で、日中の最高気温が32度となる。高原と山の地域は乾燥していて、車に乗っても窓を開ければ涼しく感じる。 物価はというと、街中でタクシーに乗るとたいてい150円。クリスマスやお正月になると急に値上げされて200円ほどに。どうしてかと聞いたら、誰もが休暇を取りたいときに働いているのだからチップが含まれるのだそうだ。 昼食は、コロンビアでは2~3時間かけて食べる最も豪華な食事。自宅に帰って食事をするサラリーマンも多い。外食をしても、300円~400円。最高級のレストランでも5人で食べて6000円ほどである。たいていのレストランでお勧めの料理はなにかと聞くとだいたい肉料理という返答。頼むと厚さ3cmの牛肉(ステーキ)、豚のひれ肉、鶏肉の3種の肉料理が同時に出てくる。食べきるまでに2時間はかかる。3時間程度の昼食時間というのもうなずける。 1人当たりのGDPは年間33万円ほど。義理の姪が某企業の管理職をしているが月収は9万円程度である。物価は日本と比べて非常に安いが、インフレが7~10%程度で、数年前と比べるとずいぶん上がってきているように思える。これも石油価格の上昇の影響とのことだ。

■近隣諸国の薬剤価格情報が入手可能

さて今回、息子が歯痛のため、親戚の紹介で腕のよい歯科医にかかることになった。そういえば何年か前にも、この歯科医に私自身がかかったことがある。予約は電話一本で取ってくれた。こ、の国は知り合いや有力者であると簡単に予約が取れる。日本以上に人間関係を重んじる国で、ツテを使えば日常茶飯事に特別待遇を得ることができる。歯痛は結局抜歯しなければ治まらなくなり、受診・抜歯・薬代で2,500円。もちろん保険なしの全額自己負担の金額である。抗生剤や鎮痛消炎剤などもすべてジェネリック医薬品で、日本やアメリカでも聞いたことのない名称の薬剤であった。 また、親戚の80代のおばあちゃんは腰痛と高血圧でさまざまなジェネリックを飲んでいた。これもまた聞いたことのない名称のものである。先進国で使われている先発の薬剤は高額のため、後発への切り替えが進んでおり、ほとんどの薬剤がジェネリックだ。おばあちゃんはコロンビアの薬代が高いので、隣国のベネズエラに住む娘に、クリスマスでの帰国の際に数か月分の薬を買って持ってきて欲しいと電話で頼んでいた。ベネズエラでは薬が、コロンビアより30~40%も安く購入できるそうだ。彼女は、年に数回帰郷する娘に、そのつど薬を買ってきてもらっているので、ほとんどコロンビアでは薬を購入しないで済むという。 この国の人々は、近隣の国々でどのような薬剤がどの程度の価格で販売されているかの情報を入手している。物価が安い国の薬剤費は高額とのことだ。 息子のいるアメリカでは、近所に住むおばあちゃんがカナダで薬剤を購入するバスツアーに定期的に参加している。アメリカでも各国の薬剤価格の情報を入手でき、高いと思えば、安い国から購入する自己防衛策が取られている。

■日本でも隣国から薬を購入する日が来る?

ところで、日本にいる私の母親は、薬を隣の韓国や中国から購入するという発想は持ち合わせていない。薬の情報がアメリカやコロンビアのように提供されているわけでもないし、まして価格情報などにはまったくといっていいほど無関心である。これは老人向けの医療保険制度により、安価な負担で薬を手に入れられるようになっているからである。ある意味ではコロンビアやアメリカに比べてすばらしい制度なのであろう。 しかしながら、母親の戸棚の中には、飲まなかった薬が大量に保管されている。老人は入院時にも大量の持参薬を持ってくるが、結局、病院で処方する薬に切り替えられ、大量の薬が廃棄されることになる。医療費の削減が叫ばれているなかで、薬剤価格情報の提供と自己負担が増えると、わが国もコロンビアやアメリカのように隣国から薬剤を購入する日がやってくるかもしれない。

 

日本医療企画 発行 「Phase3」 2008年12月号より転載

雑誌掲載情報

病院経営の効率化に資する「院内ロジスティックス」
改善の「進むべき方向性」

 

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

■経営の視点で「院内物流」を認識している病院はごく少数

病院のロジスティクスの現状は、「医薬品や医療材料の動き」のみに注目しているケースが数多く見受けられる。たとえば院内にSPD室やSPD委員会を設置している病院でも、実際には「安価に物品を購入したい」との初期的なニーズ対応に終始している場合が数多い。
 同様の傾向は、医療機関のみならず、SPDを提供する事業者(社)側にも見られる。既存のSPD事業者は大きく「医薬品メーカー系」と「材料メーカー系」と「IT管理システムやソフトウエア系」の3つに区分できるが、いずれの場合も「サービス」の一環として物流管理を実施するパターンが多いため、医薬品や医療材料の動きのみの管理に留まる傾向にある。近年、倉庫管理や労務の提供等を通じて物流管理を請け負う事業者も増加してきたが、この場合も、結局は「システム導入」「倉庫管理」「配送請負」などに付随したサービスとして物流管理に従事することが多い。逆説的には、こうした個別分野の事業者が提供する“SPD”が「経営全体を包括しうる物流管理」ではないことが、サービスを受ける病院側が大局的に物流管理を意識する機会が少ない状況につながっていると言えよう。
 また、最近は大手商社などを中心に、物流管理サービスの提案も見受けられるが、大規模なシステムインフラ構築を要する場合が多く、また外注委託等の場合は「物流管理費」など新たな直接コストを病院側が負担することになる。これらコストを上乗せしても収支改善を図れるのは、前提に相当規模の購買活動がある場合のため、導入メリットを享受できるのは、多くの病床を持つ大規模病院、複数の病院を有するグループ、公立の病院群を管理する自治体等にほぼ限定される。具体的には、病床数が「300床以上」、あるいは、年間の物品購買額が「数億~数十億円」といった数値が導入の可否を計る目安として考えられる。

■ヒト・モノ・カネ―という経営の基本要素から「物流管理」の効果を検証すべき

病院経営の効率化に資する物流管理」をめざすためには、購買管理、在庫管理、消費管理を有機的に連動させ、理事長や院長のトップダウンで統率していく体制構築が理想型である。その意味でも、多くの病院にとっては、自院内の「物流」の定義自体を見直す姿勢を基本とし、重視すべきである。換言すれば、病院経営上の戦略(strategy)上の位置づけについて確認作業から取りかからなくてはならない。経営の基本3要素-ヒト・モノ・カネ-の観点では、事務用品等も含む一般消耗品、リネン、検査用の検体、滅菌処理を要する医療器具等、カルテ等、多種多様な「モノ」の流れはすべて物流であり、これらを総体的に検証しつつ、「ヒト」の流れ、「カネ」の流れと効率的に結合することが基本原則となる。
 この点についてわれわれのコンサルティング活動の場合は、「病院規模」「経営意識の浸透度」等の複数のセグメントから多角的に分析し、フェイズごとの具体的な改善項目を提示する。プロジェクト規模にもよるが、通常、最終的に経営トップに対して提示する約200項目のなかには、当然ながら物流管理に関連する要素も多々含まれる。「コンサルタント」という中立的・客観的な立場からは、従来には病院があまり踏み込んでこなかった」、ないしは「踏み込めなかった」物流管理の効率化、たとえば、「診断には必要のない検査や画像診断」「薬剤の見直しや切り替え」等も率直に指摘する。したがって医師を含む職員との議論を経て、現場の合意を得てうえで、クリティカルパスを含めた「医療の標準化」と「経営の最適化」に取り組む。 経営の本質的な部分から物流管理を徹底するうえでは、こうした人的マネジメントの範疇に含まれるべき要素にも、ごく当然に斬り込む必要性があることを経営者は認識すべきだ。

■DPC等と同じ考え方に位置する物流管理の徹底化

 将来的には、病院全体や各診療科における薬剤や材料の消費・供給状況を詳細に把握したうえで、医療行為に直結した新たな物流管理のあり方が主流になると予測される。われわれのコンサルティング活動も、その方向性を指向している。DPCや米国で導入されているDRG(Diagnosis Related Group)と同様に「原価管理」「類似行為のグループ化/標準化」を基本的な取り組みとし、最終的には、「疾病」「手術」「処置」を単位とした、ケースごとの薬剤投与量、物品消費量、要したマンパワーの数値化と、それにもとづく経営効率化を推進する。さらに実績値を集積したうえでベンチマークや平均値を割り出せば、その後の投薬や治療の「標準化」や「ベストプラクティス」の抽出も可能である。われわれは独自に約250種類の主要疾病について改善事例をデータベース化し、すでに病院に対する経営指導のなかで活用している。
 今後のロジスティクスは、こうしたハードウエア的にもソフトウエア的にも「物流管理の成果を医療行為自体へフィードバックできる仕組み」の構築が不可欠であり、われわれもそのためのコンサルティングを実践していく。

 



日本医療企画 発行 「Phase3」 2008年12月号より転載

雑誌掲載情報

政府調達という税金の無駄づかい

 

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

■なぜ政府調達になったのか?

X線フィルムが政府調達品目になった背景は、日本のカメラフィルム業界が閉鎖的で外資フィルムメーカーが容易に参入できない産業障壁がある。ただし当時、富士フイルムなどの国内フィルムメーカーはフィルムの販売網を構築し、あらゆる観光地でフィルムが簡単に入手できるようになっていし、また現像所も津々浦々に存在していた。これは、富士フイルムなどの国内メーカーが安価に現像できる現像処理機を提供してきた努力の結果である。これらの販売網と現像網が外資系フィルムメーカーにとって参入障壁となり改善要求が政治的に取り上げられたことが、医療用フィルムについて政府調達が行われる原因となったものと考えられる。 現状はどうなったかというと、デジカメが急速に広まった結果、フィルムの現像は著しく低下し、代わりにデジタル画像からの写真印刷が主流になっている。 一方、医療業界では、診療報酬の改定により画像検査の報酬が低くなった結果、フィルムの購入価格も低下している。さらに電子カルテの浸透によりデジタル画像での確認が増え、フィルム現像は半減している結果、フィルム経費も半減している。したがって、医療環境の変化のなかで、コダックやアグファという外資系メーカーのマーケットシェアは25.2%(弊社のデータベースより)、国内メーカーが圧倒的に多く医療用フィルムを病院に納入しているのが現状である。

 

■高価格での購入

さて本題に戻って、国立の各医療機関ではX線フィルムを政府調達品目として入札を行い購入しているが、高い価格での購入となったままでいる。弊社のデータベースから国立医療機関での購入価格を調べてみると、定価からの値引率は、保険請求不可のF社のフィルム製品3品目が9.7%から12.4%で、保険請求可能な他社のフィルムは約40%~60%となっており、一見かなり良い値引率で購入しているように見える。しかしこの10年の診療報酬改定により下げられた償還価格からの割引率を考えた場合、ほとんどの製品が償還価格から5%程度の割引率で購入されている。購入時に支払う消費税を考慮すると、購買業務に伴う事務処理経費も捻出できていないと考えられる。 国立医療機関以外の病院では、償還価格からの値引率25%~40%当たりが平均的と見られ、ある病院では50%となっている。 この政府調達制度のもとでX線フィルムを購入しなければならない病院は、大学病院や国立病院、がんセンター、各種独立行政法人化した医療機関、都道府県の医療機関など多数にのぼる。

■35億円の無駄

弊社のデータベースでは、各国立医療機関でのX線フィルムの年間購入金額は1,700万円~6,700万円とかなり差がある。国立医療機関での政府調達はある意味で共同購買ととらえれば、スケールメリットを利用して値引率50%を獲得できたとすると、購入金額はほぼ半減する。 政府調達のX線フィルムの総額を様々な資料にあたって調べてみたが、その額が記載されている資料は見つからなかった。調達金額が1,400万円を超えるものは政府調達品目として購入しなければならない。少なくとも500以上の医療機関で1400万円を超えているものと仮定すると、70億円の税金が使用され、半額の35億円の税金が無駄使いされていると想定できる。消費税率を上げようとする前に、無駄な税の使用を改善するべきである。 政府調達の品目として高い買い物を続けることが国民のためになるとは到底考えられない。政府としてもこのような品目は除外するよう検討すべきである。 今回、政府調達でのX線フィルムを調べている最中に不落に終わり、随意契約となった九州がんセンターの事例を発見した。政府調達にも例外の細則があり、該当すれば、随意契約となる事例である。決して不公平な競争をせよというわけではないが、高齢化社会が進展するなかで、国民の税金をもっと効果的に使い、医療費の有効活用の道を考え抜く役人も必要となるのではないか。



日本医療企画 発行 「Phase3」 2007年12月号より転載

雑誌掲載情報

迷走するDPC病院と質の改善を実施するDPC病院

 

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

「DPC病院を1,000病院にする」と厚生労働省が目標を掲げたことを機に、700を超える病院が駆け込みで、今年度のDPC準備病院の新規募集に名乗りを上げた。

 さて、駆け込みで応募した病院には、Eファイル・Fファイルの4~6月分を提出することが求められるが、提出データの不備などにより、DPC準備病院として厚生労働省に認められなければ、元も子もない。ある病院は医事課でデータをチェックしてきたが、その精度が確保できず、第三者に依頼してデータの精度確保を行うことを決定。サイプレスに依頼してきたのは木曜日のことだったが、データ提出は月曜日の予定と、すでに提出4日前の段階だった。

状況を考えると、土日にデータ分析を行っても、最終手直しの時間が足りない。結局Eファイル・Fファイルを3か月分持ち帰り、会社で分析を実施した後、その夜に分析結果を確認し、病院に送付した。一方で、昨年からデータを提出してきた病院では、様々なDPCに関する説明会で繰り返される、「前年の収入を確保できるように調整係数は設定される」との意味を誤り、「検査や投薬を厚くしておけばよい」と解釈しているところも多い。つまり、収入が確保されるのであれば、経費のかかる医療を展開し、DPC病院となった時点から改善を実施すれば“儲かる”というわけである。厚生労働省が決定する調整係数が、どのような基準で設定されているのかわからない“ブラックボックス”となっていることから起こる誤りとも言えるが、この不明な設定方法が医療費の無駄使いを促進させていることも否定できない。

当初、2008年に予定されていた調整係数の廃止が10年にずれ込むことは、ほぼ間違いないが、結果として医療費の無駄使いを増長させることにつながるだろう。厚労省が意図したことではないかもしれないが、DPC準備病院の誤った認識により、医療費の無駄使いが助長されているのであれば、調整係数の設定方法を公開するべきである。

もっとも、このような病院でも、医療費の無駄使いをしない、本来のあるべき医療を提供する方法はある。たとえば、肺炎で緊急入院してくる患者は、どの病院でも少なくないはずだが、第一選択で使われる抗生剤は、診療科や医師によって異なってくる。肺の状態を調べる際には、X線画像を見れば必要な情報は十分入手できるはずだが、果たしてCT画像を撮る必要があるのか? 入院直後に投与した第一抗生剤が医師ごとに異なる理由は、感染対策上の意義からしてどこにあるのか? 菌に効く抗生剤が何かを知る培養と感受性試験をいつ実施し、どの程度の頻度で再確認するべきなのか? また、薬剤の投与量と日数は妥当なのか? ――― といったことを議論すると、さまざまな治療過程が標準化された後、クリティカルパスが完成される。このような取り組みを実践すれば、薬剤耐性菌を作らずに、かつ、質の高い医療も提供できるため、結果的に医療費の削減も可能となる。

他方、DPC対象病院として、DPCを数年間実施してきたある病院では、出来高と比較して大きく赤字となった症例を分析し、診療内容を精査した後に改善課題を抽出した。もっとも医療資源を投入した傷病名が入院時に入力した傷病名と異なっていても変更しなかった症例が多々存在したが、これらの見直しを徹底することにより、約4ヶ月後に出来高で算定した収入と比較した場合、DPC収入の方が減収している症例は、ほとんどなくなった。


また、投薬をしているにもかかわらず血中濃度の測定検査を実施しなかったために特定薬剤管理指導料が取得できないでいたケースの改善、予定入院患者の検査と画像診断の標準化によるパスの作成、ラジカットを使用する症例と脳梗塞治療としてのtPAの投与、さらに日帰り手術の地域住民や救急隊への説明会の増加によって、患者数は38%増、収入でも80%増という成果を導き出した。


このほか、オメプラール、オメガシン、メロペンなど、薬剤の使用日数の制限によるガイドラインを設定し、特定の薬剤の使用には申告制度を設定した病院でも、大きな改善につながったようだ。同院では、前年のDPC収入と比較して9,000万円以上の収入増となったばかりでなく、5,800万円以上のコスト削減も実現できたという。「医療の質の改善を追求する限り、調整係数など気にしなくとも、運営はついてくる」という実例である。

 

日本医療企画 発行 「Phase3」 2007年9月号より転載

雑誌掲載情報

地震災害地の輪島市で頭の下がる医療活動

 

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

去る3月25日、北陸地方で大きな地震が発生したというニュースを聞き、当地の医療機関に問合せをしたところ、大きな被害を受けていた。被災直後から日赤、厚生連、済生会、民医連などはすぐに現地に医療チームを派遣した。特に被害がひどかったのが石川県の輪島市である。今回は、現地に入った私が実際に眼にした、医療ボランティアの奮闘ぶりを紹介したい。

東京から車を600キロ飛ばして輪島市に入ったのは、朝7時前。7時過ぎには、全国から応援に駆けつけた医療ボランティアが、被害を受けた診療所で市域住民への診察を開始すべく、準備を始めた。その直後、当日参加の私を含め、全国から来たボランティアに対して災害支援本部から現状と注意事項が説明された。輪島市は65歳以上の高齢者が多く、住民の過半数を占めている地域である。独居老人も多く、年金生活者が被災したケースも非常に多いとのことだった。高齢者の往診を行ったボランティアの報告では、地震のストレスで血圧が270まで上がっていても、「大丈夫、大丈夫」と言っているという。被災した自宅と今後の生活を懸念して、自らの体調どころではないのである。

 

前日診療にあたったボランティアは、夜勤明けで駆けつけて夕方まで診療を続け、今朝、病院に戻るという。代わりに今朝来るはずの医師は、夜勤明けの急患対応で遅れるとのこと。千葉、岐阜、大阪、静岡、京都など、各地の病院から集まった医療職は看護師、薬剤師、事務職員、放射線技師など20人ほどであった。彼らは診療所隣の民家に雑魚寝で泊まっていた。さまざまな交通手段を使って、皆、やっとたどりついたとのことだった。

 災害支援本部はその民家の居間に設けられていた。私たちは1チーム3~4人で、連絡が取れない地域住民のもとに出向き、活動することとなった。私のチームは軽トラックと診療所の車で地図のコピーと住所氏名を頼りに出発。最初にたどり着いたのは独居老人の女性宅だった。家のなかは、あらゆるものが散乱しており、歩くことも困難な状況。他県にいる娘の家にしばらく厄介になるとのことで、荷造りの手伝いをすることとなった。4人で家の中から必要なものを探し出し段ボール箱に入れ運び出す。軽トラックに積み、街なかの知り合いの家の玄関横に積み上げ、後で宅急便に運んでもらう手はずとなった。

 
次のお宅は、山の中腹にある独居老人の女性宅。家屋は歪み、崩れた壁の残骸と瓦が山のように積みあがっていた。一部屋以外は外気が入ってくる状況で、何とかそこで寝ているとのことだった。ここでは看護師も薬剤師も、医療サービスの提供よりも肉体労働が求められた。連絡の取れた工務店から2トントラックとチェーンソーを借り、瓦礫の除去と、崩壊した柱類をトラックに載せられる大きさにチェーンソーで切って積み込む作業となった。残骸を満載したトラックで20キロ先の廃棄所まで数回往復して捨てに行ったが、そこは数百台もの冷蔵庫や洗濯機などが山のように積まれた異様な光景だった。


廃棄所の終了時間が過ぎてしまったため、女性に「明日、また来ます」と伝えたところ、「御礼に」と封筒に包んだお金を渡そうとする。休みなく働いていたのを見て、相当感激したらしいのだが、「ボランティアで来ているので、お金は受け取れない」と言うと、しばらく押し問答となり、結局缶ジュースとお菓子をいただいて帰った。医療機関で働いている薬剤師、事務職、放射線技師と私は今日1日、医療サービスは提供できなかったが、肉体労働サービスは提供できた。私は寝不足と朝からの肉体労働で体中が筋肉痛できしんでいた。


私以外の3人は今晩も泊まり、明日もボランティア活動をするという。遠くから駆けつけたうえに専門職でありながらも、被災住民が必要なら肉体労働も厭わない姿には頭の下がる思いだ。住民の安否と健康状態を把握し、訪問記録を書き、必要なら車に乗せて診療所に連れて行って医療サービスを提供するボランティアたち。地元に戻れば通常の業務が待っている。今回のボランティアの交通費は、それぞれが所属する医療機関が負担するという。病院経営を取り巻く環境が厳さを増すなか、「ボランティアに行きたい」という職員を送り出し、かかった経費は病院が負担する――――。日本は、まだまだ捨てたものではない。

 

日本医療企画 発行 「Phase3」 2007年6月号より転載

雑誌掲載情報

患者から選ばれるための情報戦略術

 

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

最近、テレビや雑誌などで、医療を題材に取り上げているものをよく目にするようになってきた。テーマも様々な切り口で取り上げられ、昔と比べるとかなり多くの情報が簡単に手に入るようになった。専門治療についての名医・カリスマ医師として紹介する番組も増えているが、こうした番組が放送されると、日本全国から患者が集まり、数ヶ月待ちになっている病院もある。

インターネットには、掲示板などの口コミや医療機関のランキング・評価を第三者的に行っているサイトも数多く存在する。疾患や治療方法についての知識・情報もかなりの数が検索できるため、非常に専門的な内容まで手に入れることが可能になってきている。

これらは、実は医療機関側から積極的に発信している情報ではない。医療とはまったく関係の無い、いわば第三者側からもたらされているものである。世間一般で、医療への関心が非常に高まっていることがうかがわれる。

このような風潮になってきた背景には、言うまでもなく、広告規制がある。医療機関側から発信できる情報では、世間一般の求めるニーズに対してあまりに不十分であるためだ。現状では、「どの病院・クリニックが優れているか」、あるいは「どの医師が優れた治療実績を持っているか」などを比較検討できる基準などは存在しないため、実際に病気になったときには、「近隣に所在する、どの病院やクリニックに行けば大丈夫かといった安心感を得られる情報もない。例え口コミや評判などで自分が「良い」と信頼できる医療機関を知っていたとしても、それが遠方であるならば、生命に係わるような緊急性を要する場面では、情報の無い近隣の医療機関を選ばざるを得ない。現在の情報だけでは、患者側の選択肢があまりに少ないことが問題なのである。

他のサービス業であれば、サービスの中身や質について評価・比較されることが常識となっている。例えばレストランでは、価格やメニュー、サービス内容といった基準があり、高額な有名シェフのメニューから、お手ごろ価格のメニューまで容易に比較検討することができる。どんな分野でも、より良いものを求める心理は変わらず存在する。

ただ、第三者側からの情報のみでの評価は不十分といわざるを得ない。専門性が無いため、実際の治療内容に踏み込んだ評価はなされていないからだ。口コミや評判などである程度スポットライトを浴びているところが、マスコミなどで取り上げられることにより患者は更に集中していく。だが、より良い医療を提供できるように努力をしている医療機関はまだまだ数多く存在する。しかし、広告規制の中では、その良さを十分に伝えらず、他との差別化を図るような違いも出しにくいため、特色や強みを十分に伝えられないのが実情である。

治療内容や取り組みなど、医療の中身に関して比較する際には、われわれコンサルタントも利用できる。たとえば弊社でも100以上のDPC導入病院のデータベースで、同じDPCコードによる治療内容の比較検討をしている。そのような情報を利用すれば、医療機関側からも、治療実績について他と比較した強みや特徴を今よりももっと多様な観点から打ち出していくことが可能となろう。

厳しい医療制度改革の流れのなかで競争に勝ち残るには、サービスの質向上とともに、広告戦略が非常に重要なポイントとなる。それぞれの医療機関が持つ特色や良さをもっと具体的に近隣に情報提供できれば、患者から選ばれる医療機関になれるはずだ。この第三者に取り上げられる情報が圧倒的に多くなれば、広告規制など有名無実になるに違いない。そのためには、患者が知りたいトピックを発信していくこと、あるいは我々のようなコンサルタントなど、第三者を利用して入手した情報を、ホームページにて発信することなども考えられる。

医療機関からの情報提供は世間一般から見ればまだまだ不十分。情報の入手や発信の方法は色々と考えられるので、それに対していかに早く、かつさまざまな取り組みをするかが、今後大きな差となって出てくるはずだ。

 

日本医療企画 発行 「CLINIC BAMBOO」 2006年6月号より転載

雑誌掲載情報

開業医に発想力が必要な理由

医療環境変化に対応するため積極的なアクション必要

 

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

「何か妙案はないものか・・・」と頭を抱えている読者も多いだろう。診療報酬マイナス改定に引き続き、医療法をはじめとした関連法も重大な改正を控えている。しかし、開業医を続けていくならば、今後も同様の厳しい医療環境の変化に対してすぐに対策を考え、講じる能力が必要となる。そこで「発想力」について、医療コンサルタントで株式会社サイプレス代表取締役を務める伊藤雅教氏と、多摩大学医療リスクマネジメント研究所教授の真野俊樹氏に話を聞いた。

.医療環境は年々悪化、変化は避けて通れない

開業医の先生方には、“消費者”を喜ばせるということを学んでもらいたいと思います」と強調するのは、外資系企業から転身、独立して医療コンサルティング業務を行っている伊藤氏。続けて、「コンビニエンスストアや外食産業などには、顧客が望むサービスをもっとも短時間で提供するためのマニュアルが必ず存在しています。しかし、診療所ではそうしたものはまず存在しない。異業種から学べるものは数多くあります」と指摘する。
伊藤氏がこのように語る背景には、表が示す診療報酬改定の変遷を見ても分かるとおり、医師にとっての医療を取り巻く環境が悪化している状況がある。「今から10年ほど前は、医療環境が現在ほど変化していなかった時代だと思います。院長がまじめに医療を提供してさえいれば、右肩上がりで成長できていました。しかし近年は、診療報酬改定や医療制度改革などの環境変化が急激なものとなっているという印象があります」 また、情勢と医療機関のマネジメントに詳しい真野氏は次のように語る。 「昨今の開業ブームで希望的観測を唱える人もいますが、今後、開業医の競争は間違いなく厳しくなっていくと私は思います」同氏の分析によれば、政府による社会保障費削減に伴う診療報酬抑制と新規参入診療所の増加がその理由として挙げられる。 「診療報酬に関しては、今後は間違いなく厳しいものになる。これには疑いの余地はないでしょう。また、診療所の数が間もなく10万に届くとも言われていますが、こうした状況では1診療所あたりの患者数が減少していくのはもはや自明の理といえます」 制度改革などによる将来の医療環境の変化を、真野氏のように予見することはそう難しくはない。今後は心労報酬のマイナス改定が政府の規定路線となることも十分ありうる。また、保険法改正により患者の受診行動が変化していくことも過去の歴史から想定できる。さらに言えば、こうした変化は開業医である以上、引退するまで避けては通れないのである。


2.マーケティングと営業で「待つだけ」経営から脱却

このような医療界の激動期を、開業医は果たしてどのように切り抜ければよいのだろうか。 「競争が激しくなるなかでは、ただ患者を待つだけではなく、医療においてもマーケティングを行うことが必須です。それにおいては医師が発想したアイデア一つが効果的に働くこともあります」と真野氏は語る。 アメリカ・マーケティング協会の定義では、マーケティングは「個人や組織の目的を満たす諸交換を生み出すために、アイデア、商品、サービスのコンセプト、位置づけ、販売促進、流通を計画し、実行する課程」であるという(真野氏)。簡潔に言えば、「商品を生産から消費に持ち込むための機能」となる。「ただ患者を待つ」はこの対極に位置するものなのである。 さらに、マーケティングを行う際に重要となる項目として「Commodity」(商品)、「Channel」 (経路)、「Cost」(費用)、「Communication」(コミュニケーション)といった4つのCが存在する(真野氏)。「Commodity」はサービス、「Channel」は立地などの利便性、「Cost」はサービスに必要な費用、「Communication」は情報提供や広報活動などに置き換えられる。これら4Cのなかで医師個人の発想力を生かすことができる項目は「Communication」である。ここで発想力があれば、有効な情報提供方法や広報方法を思いつくことにより有効なマーケティングを実行でき、「ただ患者を待つ」だけの状況を脱却できるだろう。 また伊藤氏も同様のことを強調する。同氏は、生き残りの集患のために必要な事項として医師による「営業」活動を挙げる。「診療所を開業したら、病院へ営業に出向き、地域の講演会に出席するなどはもはや当たり前です。昔は診療所の数がそれほど多くなかったので、営業をせずとも患者が受診してくれたのでしょう。しかし診療所が増加している現在、実際に患者が集まる診療所と、いつもガラガラの診療所という二極化が見られつつあります。トップである院長の能力次第なのです」(伊藤氏)。

3.規制に護られた医療界、異業種からこそ学べる
以上のように、生き残りのために積極的なアクションが必要とされている状況のなかで、発想力を育てるためのヒントは一体どこに求めれば良いのだろうか。その問いに対する回答は、医療界の外、異なる業界にある。 客観的に見れば、医療界は規制によって護られてきた業界である。制度改革によって揺さぶりをかけられている現状でも、他の業界よりはまだ幸運だといってもよい。そんな医療関係者にとっては、冒頭にある伊藤氏の言葉のように、異業種から学べることは多いのではないだろうか。(後略)
 

日本医療企画 発行 「CLINIC BAMBOO」 2006年6月号より転載

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