雑誌掲載情報
患者から選ばれるための情報戦略術
株式会社 サイプレス
代表取締役 伊藤雅教
最近、テレビや雑誌などで、医療を題材に取り上げているものをよく目にするようになってきた。テーマも様々な切り口で取り上げられ、昔と比べるとかなり多くの情報が簡単に手に入るようになった。専門治療についての名医・カリスマ医師として紹介する番組も増えているが、こうした番組が放送されると、日本全国から患者が集まり、数ヶ月待ちになっている病院もある。
インターネットには、掲示板などの口コミや医療機関のランキング・評価を第三者的に行っているサイトも数多く存在する。疾患や治療方法についての知識・情報もかなりの数が検索できるため、非常に専門的な内容まで手に入れることが可能になってきている。
これらは、実は医療機関側から積極的に発信している情報ではない。医療とはまったく関係の無い、いわば第三者側からもたらされているものである。世間一般で、医療への関心が非常に高まっていることがうかがわれる。
このような風潮になってきた背景には、言うまでもなく、広告規制がある。医療機関側から発信できる情報では、世間一般の求めるニーズに対してあまりに不十分であるためだ。現状では、「どの病院・クリニックが優れているか」、あるいは「どの医師が優れた治療実績を持っているか」などを比較検討できる基準などは存在しないため、実際に病気になったときには、「近隣に所在する、どの病院やクリニックに行けば大丈夫かといった安心感を得られる情報もない。例え口コミや評判などで自分が「良い」と信頼できる医療機関を知っていたとしても、それが遠方であるならば、生命に係わるような緊急性を要する場面では、情報の無い近隣の医療機関を選ばざるを得ない。現在の情報だけでは、患者側の選択肢があまりに少ないことが問題なのである。
他のサービス業であれば、サービスの中身や質について評価・比較されることが常識となっている。例えばレストランでは、価格やメニュー、サービス内容といった基準があり、高額な有名シェフのメニューから、お手ごろ価格のメニューまで容易に比較検討することができる。どんな分野でも、より良いものを求める心理は変わらず存在する。
ただ、第三者側からの情報のみでの評価は不十分といわざるを得ない。専門性が無いため、実際の治療内容に踏み込んだ評価はなされていないからだ。口コミや評判などである程度スポットライトを浴びているところが、マスコミなどで取り上げられることにより患者は更に集中していく。だが、より良い医療を提供できるように努力をしている医療機関はまだまだ数多く存在する。しかし、広告規制の中では、その良さを十分に伝えらず、他との差別化を図るような違いも出しにくいため、特色や強みを十分に伝えられないのが実情である。
治療内容や取り組みなど、医療の中身に関して比較する際には、われわれコンサルタントも利用できる。たとえば弊社でも100以上のDPC導入病院のデータベースで、同じDPCコードによる治療内容の比較検討をしている。そのような情報を利用すれば、医療機関側からも、治療実績について他と比較した強みや特徴を今よりももっと多様な観点から打ち出していくことが可能となろう。
厳しい医療制度改革の流れのなかで競争に勝ち残るには、サービスの質向上とともに、広告戦略が非常に重要なポイントとなる。それぞれの医療機関が持つ特色や良さをもっと具体的に近隣に情報提供できれば、患者から選ばれる医療機関になれるはずだ。この第三者に取り上げられる情報が圧倒的に多くなれば、広告規制など有名無実になるに違いない。そのためには、患者が知りたいトピックを発信していくこと、あるいは我々のようなコンサルタントなど、第三者を利用して入手した情報を、ホームページにて発信することなども考えられる。
医療機関からの情報提供は世間一般から見ればまだまだ不十分。情報の入手や発信の方法は色々と考えられるので、それに対していかに早く、かつさまざまな取り組みをするかが、今後大きな差となって出てくるはずだ。
日本医療企画 発行 「CLINIC BAMBOO」 2006年6月号より転載