雑誌掲載情報
迷走するDPC病院と質の改善を実施するDPC病院
株式会社 サイプレス
代表取締役 伊藤雅教
「DPC病院を1,000病院にする」と厚生労働省が目標を掲げたことを機に、700を超える病院が駆け込みで、今年度のDPC準備病院の新規募集に名乗りを上げた。
さて、駆け込みで応募した病院には、Eファイル・Fファイルの4~6月分を提出することが求められるが、提出データの不備などにより、DPC準備病院として厚生労働省に認められなければ、元も子もない。ある病院は医事課でデータをチェックしてきたが、その精度が確保できず、第三者に依頼してデータの精度確保を行うことを決定。サイプレスに依頼してきたのは木曜日のことだったが、データ提出は月曜日の予定と、すでに提出4日前の段階だった。
状況を考えると、土日にデータ分析を行っても、最終手直しの時間が足りない。結局Eファイル・Fファイルを3か月分持ち帰り、会社で分析を実施した後、その夜に分析結果を確認し、病院に送付した。一方で、昨年からデータを提出してきた病院では、様々なDPCに関する説明会で繰り返される、「前年の収入を確保できるように調整係数は設定される」との意味を誤り、「検査や投薬を厚くしておけばよい」と解釈しているところも多い。つまり、収入が確保されるのであれば、経費のかかる医療を展開し、DPC病院となった時点から改善を実施すれば“儲かる”というわけである。厚生労働省が決定する調整係数が、どのような基準で設定されているのかわからない“ブラックボックス”となっていることから起こる誤りとも言えるが、この不明な設定方法が医療費の無駄使いを促進させていることも否定できない。
当初、2008年に予定されていた調整係数の廃止が10年にずれ込むことは、ほぼ間違いないが、結果として医療費の無駄使いを増長させることにつながるだろう。厚労省が意図したことではないかもしれないが、DPC準備病院の誤った認識により、医療費の無駄使いが助長されているのであれば、調整係数の設定方法を公開するべきである。
もっとも、このような病院でも、医療費の無駄使いをしない、本来のあるべき医療を提供する方法はある。たとえば、肺炎で緊急入院してくる患者は、どの病院でも少なくないはずだが、第一選択で使われる抗生剤は、診療科や医師によって異なってくる。肺の状態を調べる際には、X線画像を見れば必要な情報は十分入手できるはずだが、果たしてCT画像を撮る必要があるのか? 入院直後に投与した第一抗生剤が医師ごとに異なる理由は、感染対策上の意義からしてどこにあるのか? 菌に効く抗生剤が何かを知る培養と感受性試験をいつ実施し、どの程度の頻度で再確認するべきなのか? また、薬剤の投与量と日数は妥当なのか? ――― といったことを議論すると、さまざまな治療過程が標準化された後、クリティカルパスが完成される。このような取り組みを実践すれば、薬剤耐性菌を作らずに、かつ、質の高い医療も提供できるため、結果的に医療費の削減も可能となる。
他方、DPC対象病院として、DPCを数年間実施してきたある病院では、出来高と比較して大きく赤字となった症例を分析し、診療内容を精査した後に改善課題を抽出した。もっとも医療資源を投入した傷病名が入院時に入力した傷病名と異なっていても変更しなかった症例が多々存在したが、これらの見直しを徹底することにより、約4ヶ月後に出来高で算定した収入と比較した場合、DPC収入の方が減収している症例は、ほとんどなくなった。
また、投薬をしているにもかかわらず血中濃度の測定検査を実施しなかったために特定薬剤管理指導料が取得できないでいたケースの改善、予定入院患者の検査と画像診断の標準化によるパスの作成、ラジカットを使用する症例と脳梗塞治療としてのtPAの投与、さらに日帰り手術の地域住民や救急隊への説明会の増加によって、患者数は38%増、収入でも80%増という成果を導き出した。
このほか、オメプラール、オメガシン、メロペンなど、薬剤の使用日数の制限によるガイドラインを設定し、特定の薬剤の使用には申告制度を設定した病院でも、大きな改善につながったようだ。同院では、前年のDPC収入と比較して9,000万円以上の収入増となったばかりでなく、5,800万円以上のコスト削減も実現できたという。「医療の質の改善を追求する限り、調整係数など気にしなくとも、運営はついてくる」という実例である。
日本医療企画 発行 「Phase3」 2007年9月号より転載