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政府調達という税金の無駄づかい - 医療,病院,コンサルティング,株式会社サイプレス

 

 

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政府調達という税金の無駄づかい

 

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

■なぜ政府調達になったのか?

X線フィルムが政府調達品目になった背景は、日本のカメラフィルム業界が閉鎖的で外資フィルムメーカーが容易に参入できない産業障壁がある。ただし当時、富士フイルムなどの国内フィルムメーカーはフィルムの販売網を構築し、あらゆる観光地でフィルムが簡単に入手できるようになっていし、また現像所も津々浦々に存在していた。これは、富士フイルムなどの国内メーカーが安価に現像できる現像処理機を提供してきた努力の結果である。これらの販売網と現像網が外資系フィルムメーカーにとって参入障壁となり改善要求が政治的に取り上げられたことが、医療用フィルムについて政府調達が行われる原因となったものと考えられる。 現状はどうなったかというと、デジカメが急速に広まった結果、フィルムの現像は著しく低下し、代わりにデジタル画像からの写真印刷が主流になっている。 一方、医療業界では、診療報酬の改定により画像検査の報酬が低くなった結果、フィルムの購入価格も低下している。さらに電子カルテの浸透によりデジタル画像での確認が増え、フィルム現像は半減している結果、フィルム経費も半減している。したがって、医療環境の変化のなかで、コダックやアグファという外資系メーカーのマーケットシェアは25.2%(弊社のデータベースより)、国内メーカーが圧倒的に多く医療用フィルムを病院に納入しているのが現状である。

 

■高価格での購入

さて本題に戻って、国立の各医療機関ではX線フィルムを政府調達品目として入札を行い購入しているが、高い価格での購入となったままでいる。弊社のデータベースから国立医療機関での購入価格を調べてみると、定価からの値引率は、保険請求不可のF社のフィルム製品3品目が9.7%から12.4%で、保険請求可能な他社のフィルムは約40%~60%となっており、一見かなり良い値引率で購入しているように見える。しかしこの10年の診療報酬改定により下げられた償還価格からの割引率を考えた場合、ほとんどの製品が償還価格から5%程度の割引率で購入されている。購入時に支払う消費税を考慮すると、購買業務に伴う事務処理経費も捻出できていないと考えられる。 国立医療機関以外の病院では、償還価格からの値引率25%~40%当たりが平均的と見られ、ある病院では50%となっている。 この政府調達制度のもとでX線フィルムを購入しなければならない病院は、大学病院や国立病院、がんセンター、各種独立行政法人化した医療機関、都道府県の医療機関など多数にのぼる。

■35億円の無駄

弊社のデータベースでは、各国立医療機関でのX線フィルムの年間購入金額は1,700万円~6,700万円とかなり差がある。国立医療機関での政府調達はある意味で共同購買ととらえれば、スケールメリットを利用して値引率50%を獲得できたとすると、購入金額はほぼ半減する。 政府調達のX線フィルムの総額を様々な資料にあたって調べてみたが、その額が記載されている資料は見つからなかった。調達金額が1,400万円を超えるものは政府調達品目として購入しなければならない。少なくとも500以上の医療機関で1400万円を超えているものと仮定すると、70億円の税金が使用され、半額の35億円の税金が無駄使いされていると想定できる。消費税率を上げようとする前に、無駄な税の使用を改善するべきである。 政府調達の品目として高い買い物を続けることが国民のためになるとは到底考えられない。政府としてもこのような品目は除外するよう検討すべきである。 今回、政府調達でのX線フィルムを調べている最中に不落に終わり、随意契約となった九州がんセンターの事例を発見した。政府調達にも例外の細則があり、該当すれば、随意契約となる事例である。決して不公平な競争をせよというわけではないが、高齢化社会が進展するなかで、国民の税金をもっと効果的に使い、医療費の有効活用の道を考え抜く役人も必要となるのではないか。



日本医療企画 発行 「Phase3」 2007年12月号より転載

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