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手術室は「病院の大動脈」 効率運営は経営の最重要課題だ - 医療,病院,コンサルティング,株式会社サイプレス

 

 

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手術室は「病院の大動脈」
効率運営は経営の最重要課題だ

急性期病院を中心にさまざまな病院経営のコンサルティングに携わっている株式会社サイプレスの伊藤雅教代表取締役は、手術室について「さまざまな部署が関わるだけでなく、経営面でも病院全体での比重がとても高いまさに『病院の大動脈』」と位置づけ、その運営の重要性を指摘する。そのポイントを同氏に語ってもらった。

 

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

■手術室の改革なくして病院経営の好転はない

株式会社サイプレスがコンサルティングしているDPC病院約30施設を対象に医業収益に関するデータを分析したところ、 入院による収益のうち手術を要する疾病が60%、手術日だけに限っても20%に達していたという。 患者一人当たりの金額に換算すると100万円弱にのぼる。一方、医療材料も病院全体のうち45%は手術室で消費されるといわれる。 このことからも手術室の効率的な運営が病院経営にもたらす影響はきわめて大きいことがわかる。 「手術の適用患者を集める取り組みが大前提ですが、件数を増やす前に手術室の非効率な部分を見直すことも欠かせません」と伊藤社長は強調する。

伊藤社長は改善する際のポイントとして「コスト管理」「運営」「物品管理」の3つを挙げるが、これらの取り組みはいずれも、 各診療科、あるいは部署で完結するものではないだけに、病院が主導的な役割を果たしていく必要があると指摘する。
大学病院や民間病院で長年にわたって手術部担当の看護師として活躍してきた同社コンサルタントの音谷多恵子氏は、 院長は麻酔科部長、手術部長、事務長、看護部長などが加わった委員会を立ち上げるなど、院長が積極的にリーダーシップをとり、 各診療科の協力を求める姿勢の必要性を訴える。さらに、“エビデンス”も不可欠という。 「掛け声だけで医師を説得するのは難しい。手術部で発生する収益、支出を算出したうえでデータ化し、それらの裏づけに基づいて説明するべきです。 手術部独自で会計ソフトを取り入れて術式ベースで収益・支出を算出するケースもあります。これは従来の業務の枠組みを越える取り組みですし、 手間もコストもかかりますが、それを差し引いても手術部運営は重要と認識すべきです」
「コスト管理」の場合、物品管理は事務部門に一任したり、あるいは外部業者に一度委託してしまうと、その後の運営は「丸投げ」してしまっていることが少なくない。 しかし、その価格が現場のニーズに見合ったものかどうかは、現場でなければ判断できないことが多い。 現場レベルがコストに対する問題意識をもって、診療部門・事務部門などと連携する姿勢が求められるのだ。

 

■作業工程の見直しや物品の標準化も

「運営」についてもチェックポイントは多いと伊藤社長は指摘する。まず、手術に要する時間。ざっと挙げても朝、予定通りに手術が始まっているか、 麻酔の導入時間を短縮できるか、病棟と手術室の連携を強化して予定通りに患者を入室できているか、 執刀医が時間通りに来るか、手術時間は予定通りか――などは、手術室の当人たちも気づいてはいても手が付けられないでいるテーマだ。「もちろん、手術中はさまざまな事態が起こりますから一概に予定時間がオーバーすることを問題視するわけにはいきませんが、 手術過程そのものを見直すきっかけとしても、時間のチェックは必要です」(音谷氏)

「物品管理」では、伊藤社長は「一概に『効率化』とか『患者のため』を振り回すのでなく、効率化が可能かどうかをきちんと議論し、見きわめていくことが必要です」と指摘する。

物品について伊藤社長は、①患者に不可欠で、かつ新技術を用いていることで患者を救う可能性を高めるもの、②縫合糸のように各診療科が使用しているものの、 ほとんど標準化が進んでいないもの、③包帯、ガーゼ、点滴セットなどの汎用品――と分けて検討することを提唱する。 ①は医療の高度化、患者を救う観点から効率化は難しく、また③も多くの病院では取り組んでいるケースが多い。 さらに①と③は費用面でもせいぜい25~30%程度で、ここを大きく効率化したところでコスト全体に与える影響は大きくない。
②こそ「最も手間のかかる部分で、かつ手をつけるべき部分」(伊藤社長)なのだ。縫合糸のように複数の診療科が異なる目的で類似した製品を使っているケースが 少なくない。「しかも、互いに他の診療科が類似品を使っているかなどわからないし、それを話し合う機会も意外とありません」(伊藤社長)

実際、ある大学病院では系列4病院で300種ほどの縫合糸を使用していたが、このうち3種類を統一しただけで数千万円のコスト削減につながった。 「さまざまな診療科がかかわってくるだけに面倒もありますが、やれば効果は絶大です。これは手術室全般に当てはまることだと思います」(伊藤社長)

 

日本医療企画 発行 「Phase3」 2009年2月号より転載

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