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ニュース・コラム - 医療,病院,コンサルティング,株式会社サイプレス

 

 

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診療報酬のマイナス改定でのコスト削減方法

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

今回の診療報酬の改定では、3.16%という過去最大のマイナス改定となる。平成17年6月の病院運営実態調査報告では一般病院の67.4%が赤字病院であった。その開設者別では自治体の88.6%、その他公的病院の44.5%、私的病院でも43.2%が赤字であった。今回のマイナス改定はこれらの病院を直撃し、将来の建替え、改築への準備をも困難にする。
従って今回の改定では、コスト削減が病院経営にとって重要な短期経営課題になるものと考えられる。また今回の改定では、在院日数の短縮を促進させる改定が盛り込まれ患者の奪い合いがより一層厳しさを増すこととなる。
過去10年、60床~1200床の大学病院、公立病院、公的病院、私的病院に於いて、200件近くの医療機関で経営改善に関わってきた中で、今回のマイナス改定がどの程度のインパクトを及ぼすのかと、その回避のためのコスト削減策のポイントを示してみたい。
1,000床規模の都内の大学病院では8億円程度の減収、地方大学病院では3億円程度の減収と予測している。公的病院でも600床規模の病院では2億円程度の減収、私的病院の300床規模では1億円以上の減収と推測されている。


1、薬剤のコスト削減方法

サイプレスのデータベースで検索してみると、国立大学病院と自治体立大学病院での薬剤全体の値引率は6.1%~8.2%となっている。私立大学のそれは9.1%となっており、大学間での格差は年間にして数千万円の利益の違いとなっている。さて私的病院での薬剤全体の値引率は11.2%~17.1%までと大きく異なる。病床規模別に見てみると総じて大規模病院での値引率が低く、小規模になるほど値引率が高くなっている。
通常、病院は薬卸に対して価格交渉を実施し、値引を確保しようとしているが、これは効果的な方法ではない。薬卸であるスズケンの平成17年3月度の営業利益は0.9%で経常利益でも1.8%である。総じて薬卸の営業利益率は1%以下である。反して薬メーカーである武田薬品の営業利益は34.3%であり、経常利益は39.4%である。さらに外資系薬メーカーであるグラクソ・スミスクラインの2005年第一四半期営業利益は34.7%であった。またファイザーの同時期の税引き後の純利益率(Net Income %)は20.1%と高い利益率である。この卸とメーカーの利益率の差はあまりにも大きい。従って価格交渉を卸と行って得られる値引率は僅かであり、メーカーからの価格交渉の機会を得るようにしなければならない。
通常院内では同種同効薬で複数のメーカー薬が採用されており、患者の状況に応じて、同じ疾病分類患者でも、使われる薬も使用期間も異なっている。大学病院でさえも診療科が異なれば使用薬剤は異なっているのが現状である。そこで例えば、抗生剤の使用ガイドラインを院内で作成し、そのガイドラインに則った使用がされるように徹底する。これにより、投与量、日数、使用薬剤の標準化が実現できると同時に、コストも削減でき、患者負担も削減できる。同様にH2受容体拮抗薬、アルブミン使用、ACE阻害剤、HMG-CoA還元酵素阻害剤、プロトンポンプ阻害剤などを見直すことで大きな経費削減となる。またジェネリックへの切り替えではさらに大きな削減が可能である。今回の改定ではジェネリック薬を持つ先発薬では大きな薬価の引き下げとなり、ジェネリックへの検討は必須となる。200床規模で数億円、1,000床規模の大学病院では20億円以上の薬剤を購入しており、これらの取り組みを実施した数十の病院事例では少なくとも数千万円規模以上の経費削減が実現できている。
また薬剤の在庫管理では、卸業者の配送頻度が向上しており、最も在庫日数の短い病院では4.5日となっている。特に金額の高い注射薬の在庫数の管理を徹底すると効果が高い。


2、医療材料のコスト削減方法

医療材料の削減では償還される医療材料とされない医療材料があるが、総じて償還される医療材料は高額で購入されている。弊社のデータベースからその購入金額の状況を調べてみると国立大学病院では償還される医療材料の値引率は6.1%~11.1%となっている。消費税と院内での事務経費を考慮すると、これらを購入して使用することは病院を赤字にするといっても過言ではない。
私立大学病院での値引率は8.2%~26.3%となり、医療法人では13.4%~40.1%となっている。購入量の多い大規模病院のほうが値引率がよいかというと実態はそうではない。データベースからいえることは200床以下の病院での値引率が最も高く、500床規模以上の国立大学病院の値引率が最も低い。
弊社のデータベースから急性期病院を15病院程度選び出し、年間の医療材料の購入総額のうち手術室で購入した材料の比率は40%~46%である。またそのうち整形外科、心臓血管外科、脳外科及び内視鏡関係の医療材料を総計すると、手術室の医療材料の75%を越える。
また循環器内科での医療材料は償還される材料が多く、手術室と循環器内科の材料を加えた総額は医療材料購入総額の8割を示す。
これら15病院での年間購入品目数を調べると、3,800~6,600品目であった。病院での材料マスター内に登録されている品目は6,000~10,000品目程度あり、毎月新規の品目は60~200品目追加されている。いかに医療現場では新製品あるいは規格の異なる製品導入が多いかが伺い知れる。
さて品目ごとに最も値引率の低い医療材料は5.0%で、最も値引率の高い医療材料は89.5%である。
現在、弊社のデータベースでは数万品目を株式会社ティエムシーのメディエを利用して422種類の製品群に分類し、実際の購入価格と値引率を比較している。
病院で年間購入金額の多い順に医療材料を並べると約600品目程度でその病院の購入医療材料総額の80%程度になる。上位100品目では全体の50%以上となる。従って上位100品目の購入医療材料を弊社のベンチマークデータベースと比較し、現状の使用材料における製品群の切り替えを実施することが最も経費削減に効果的となっている。
薬剤と同様に、医療機器卸の経常利益率は多くの場合に1%程度であり、卸業者を切り替えたとしても大きな値引率の変動は得られない。従って同機能の製品群で、他メーカー製品への切り替えを医師とともに検討し、メーカーに年間使用金額と数量を示し、切り替えを実施した場合に最も経費削減効果が高い。このような事例を医師に対して示すことが切り替えを促進する。
例えば、ある県立病院では数ヶ月間で約400万円の削減を実施し、200床以下のある私的病院では約180万円、大学病院では約3200万円の削減を実施した。
家電製品を含めあらゆる産業での価格情報は価格ドットコムのようにインターネットを通じて入手できるようになっているが、医療の分野では価格情報を簡単に入手できるようになっていない。そこで弊社ではこれらの情報を「ベンチマーク情報提供サービス」(http://www.kkcypress.co.jp/06/if_01bm.html)として提供するサービスを2004年から開始した。医療材料の情報提供では50件で10万円、医療機器保守や医療ガスなどの情報提供では3件で6万円としているが、このサービスを利用している医療機関では大きな経費削減を実現している。例えば、医療機器等の購入金額について、ベンチマーク価格を利用したことで、ある県立病院では約2,000万円の購入金額削減を実現できている。

 

 3、医療機器の保守及び委託業務のコスト削減方法

医療機器の新規導入では購入時に見積りを入手し、メーカー間及び機種間の競争を実施している医療機関が多いが、弊社のデータベースからわかることは医療機器を購入した後の保守契約金額と消耗品等のランニングコストが高価なままになっている場合が非常に多い。機器購入時に保守契約内容と年間保守金額、ランニングに必要な消耗品の見積りを入手し、最低でも3社による5年程度の総経費比較を行なうことが必要である。
また医療機器本体の購入金額に保守費用を含めたリース契約は、保守金額の低減の余地をなくすため、得策とは考えられない。
また保守内容を精査すると、実際に医療機関で実施する保守業務内容及び時間と修理部品等が記載されている。これらを比較するといかに法外な保守金額が請求されているかがわかる。例えば近年、高機能化が著しいCTやMRIのような高額医療機器では保守費用が2000~4500万円/年というのが典型的な例である。
以下に保守契約内容の見直しとして効果的なものを列挙する。
  ・CT
  ・MRI
  ・X線撮影装置
  ・内視鏡治療システム
  ・超音波診断装置
  ・超音波破砕装置
  ・生体情報モニター機器
  ・人工呼吸器
次に院内設備の保守では複数年契約を締結し、契約期間が終了した場合に自動更新している契約がほとんどである。契約終了時期の1ヶ月前から3ヶ月前に契約内容の変更意思を示し、条件変更を含めた価格交渉しない限り経費は削減されない。従って保守契約を単年度に変更できるものは変更する。契約書の保守業務内容及び時間と修理部品等が記載されている内容を比較すると、実際の業務内容が簡単な点検業務で済まされているにもかかわらず、高額な保守金額が請求されているかがわかる。
以下に見直しを実施すると効果的な経費削減になる保守契約を示す。
  ・エレベーター保守
  ・エスカレーター保守
  ・自動ドア保守
  ・冷暖房設備保守
  ・テレビ・冷蔵庫保守
  ・コピー機器保守
  ・駐車場設備保守
  ・情報機器保守
さらに人的サービスとして委託している業務でも複数年契約を締結し、契約期間が終了した際に自動更新している契約がほとんどである。契約内容の変更意思を示さない限り経費は毎年維持される。委託契約を単年度に変更し、契約内容の業務内容及び時間を毎月の業務報告書を基に精査する。また、これらの業務では患者にも直接関わるサービスが多く、業務内容の満足度調査結果を基に改善点を洗い出すことは委託業務サービスの質向上にも必要である。委託サービスでの患者満足度が非常に低かったある医療機関で、他院受診に患者が変えるリスクを算出した結果、年間1億円を超えていた。
以下に見直しを実施することで効果的な経費削減を実現できる委託契約を示す。
  ・給食委託
  ・寝具及び洗濯の委託
  ・院内清掃委託
  ・滅菌業務委託
  ・害虫駆除業務委託
  ・白衣及び洗濯の委託
  ・医事業務委託
  ・臨床検査業務委託
  ・院内配送業務委託(SPDを含む)
  ・受付及びメッセンジャー業務委託
  ・警備委託
以上のようにコスト削減活動を実施することにより今回の診療報酬マイナス改定での影響を緩和することができるものと考える。
ここで弊社のデータベースからランダムに20件ほどの医療機関を抽出してみたところ、図「コスト削減ポテンシャル金額:病床と医業経費の相関」の楕円で示したように病床規模に応じて医業経費が増加し、相関関係があることが確認できる。円の大きさはコスト削減ポテンシャル金額の大きさを示している。病床規模が大きくなるとコスト削減ポテンシャルが大きくなるわけではなく、コストマネージメントを実施している病院では、病床規模が大きくともコスト削減ポテンシャルはそう大きくならないことが判る。楕円から外れている2つの医療機関は一般病床の他に療養病床を有し、病床規模の割には医業経費が低いことがわかる。



また医業経費の規模とコスト削減実施金額の相関を取った、図「コスト削減実施金額と医業経費の相関」では、楕円内に位置する病院でのコスト削減活動期間は7ヶ月~9ヶ月であり、医業経費の多い病院ではコスト削減金額も大きくなり相関があることがわかる。それぞれの円の大きさは病床規模である。楕円から外れた3つの病院でのコスト削減活動期間は3ヶ月~5ヶ月であり、活動期間が短いと病床規模が大きくともコスト削減実施金額が総じて少ない。これは、コスト削減におけるノウハウの取得を病院職員が体験学習するまでは大きな削減金額とならないことを意味する。最初の3ヶ月~4ヶ月で大きな削減効果が出ない場合には、院内での削減活動が衰退する危険性が必ずある。体験学習として、新たな発見を常に活動中に提供すると大きな削減金額となって表れてくる。従って活動期間が7ヶ月~9ヶ月と長くなると、短期間である3ヶ月~5ヶ月と比較して削減金額が大きく増加することになる。億円単位のコスト削減が実現できている医療機関が多数存在する。 

2005年11月に弊社のデータベースの一部を用いて、10項目程度の経費調査に協力いただいた13医療機関におけるコスト削減ポテンシャル金額を算出した。13件での医業経費総計は1049億円であり、算出されたコスト削減ポテンシャルは年間換算で25億円となった。25億円は医業経費の約2.4%となる。今回の診療報酬改定で生じる医業収入減の影響を2.4%分コスト削減活動で対応できそうである。2006年も改定に苦しむ医療機関に対してデータベースの一部を利用した「コスト削減ポテンシャル 無料簡易診断」を提供することを検討している。

 

医学書院発行 「看護管理」 2006年4月10日発行より転載

雑誌掲載情報

特化するためのリーダーの悩み

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

先日、ある人事研修企業の社長とお会いしたところ、「企業としてどのように他の企業と差別化し、特徴を打ち出すか」を悩んでいるとのことであった。 この企業はリーダーシップ、マネージメント、ストレスマネージメントなどの研修プログラムを運営している。 人事関連の研修を提供する企業は、リクルートのような大企業から個人零細企業まで多数存在し、競争が激しい業界の一つでもあった。 というのも人事研修を手がけていた人材が独立し、起業することも多いからである。ただ、バブルがはじけてデフレが長く続いている状況下で、さまざまな企業が研修に向けていた予算をカットしている。 決して右肩上がりの成長マーケットとは言えない。 しかしながら減収減益の企業があるなかで、IT企業のように成長企業もあり、研修対象の企業も大きく異なってきているとのことであった。

 診療報酬改定による医療費抑制とマーケットの状況がよく似ている。 病院のなかでも勝ち組の病院で患者があふれている病院と、負け組の病院のように待合室がガランとしている病院が実際に存在しているからである。また研修というサービスを売る場合に、どのようなサービスなのか説明し、顧客になるであろう企業が納得しない限り、採用はない。 いかにして研修内容とその効果を説明するかが採用へのキーとなる。最近、インフォームドコンセントでの説明のうまさが増患に大きく寄与すると言われているが、治療の選択肢として、内科的治療か外科的治療か、またそのメリットとデメリットを説明する時に、十分に納得しなかった患者は、別な病院に行きセカンドオピニオンを得るようになってきている。 納得できるような説明がなければ、患者が逃げるということである。

医療のサービスも研修サービスも家電製品とは違って、目で見て製品の良し悪しを判断することが簡単ではないという共通点がある。 またどの研修も受けて見ない限り、その良さが実感できないのと同じように、医療もどの病院のどの医師の治療が良いのか患者にとってはよくわからないというのが実態であり、治療を受けて始めてその良さを知るという共通点がある。さて、この企業の取締役および社員はそれぞれ精力的に仕事をしてきた。 過去の顧客企業の研修評価は高く、継続して受注ができていたが、不況による企業の研修予算のカットによって、研修規模の縮小や研修の延期などさまざまな変化が起きてきた。 これらは売り上げ見込みの不安定化となり、売り上げの成長は鈍化し始めた。

やはり、成長企業を新規顧客として受注しない限り、売り上げ増加は見込めないことは明白であった。 しかしながら、同業他社も同じようにターゲットは成長企業であり、営業攻勢をかけていた。いかにして研修内容が企業のニーズにマッチしているか、そのプログラム内容を説明できる資料を作成することが第1に必要であり、第2には他の企業での採用実績とその効果をうたうことが必要であった。しかしながら成長企業の人事担当者は今までの採用実績の企業リストを示しても業界が異なること、業界の変化スピードが異なることなどを理由に、その効果に対しても懐疑的であり、採用への決断をしようとはしなかった。この企業の社長は研修の内容説明のなかで他社とは異なる部分をより大きくすることによって、差別化を図ろうと考えていた。 社長はそれを「エッジを立てる」ようにしたいと表現した。

次の作業は研修内容のなかで他社と異なる部分が何かを洗い出すことであり、異なる部分をさらに磨き上げて、エッジを立てる方法を組み立てることであった。 このために研修トレーナーと営業担当社員を核に、この分析と開発の作業に入るように指示を出した。さて、医療を提供する病院がどのようなサービスに特化し、他の病院と差別化をするか悩んでいる状況によく似ている。 日本国内には学ぶことができる他業界の事例が豊富に存在することを改めて再認識できるはずである

 

株式会社日本医療企画 発行 「Phase3」 2005年11月号より転載

雑誌掲載情報

診療報酬の改定と病院の動き

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

◆ 改善すべき大学病院の薬剤購入
次期診療報酬改定では、今回も薬価の引き下げが決まった。現在でも薬系卸の経常利益率は非常に低く、価格交渉に応じるだけの体力はない。医療機関では、薬価差によって利益を確保することがさらに難しくなるとともに、薬の購入価格交渉も今後、厳しさを増すはずだ。
こうしたなかで、薬剤の標準化とジェネリック薬品の採用の検討を具体的に進める動きが大病院の間でも広がり始めている。DPCの導入によって、コスト削減の必要に迫られたためだ。しかし、実際の購入金額は薬価を数%程度下回るにすぎず、これに対して民間病院での購入金額は薬価と比較して10~20%下回っている。これは、大学病院における薬剤購入には改善の余地が大きいことを意味している。見直しによって、民間病院並みの価格差を確保できれば、大きな経営改善につながるだろう。
ジェネリック薬品を使用した場合には、診療報酬上も先発医薬品と比べて高く評価される。薬品の購入価格が下がらないのであれば、ジェネリック薬品の採用を推進する方向に進みそうなものだが、現実には期待されたほど採用品目は拡大していない。その理由としては、現行の報酬上の加算よりもジェネリック薬品の採用による薬価差の金額のほうが大きいことと、薬品メーカーからのさまざまな資金的援助があるため、採用薬剤を変更する方向にインセンティブが働かないことなどが考えられる。とはいえ大学病院も、ジェネリック薬品の採用を拡大した民間病院で経営改善が進んでいる事実を認識すべきだろう。

 

◆ 給食等の負担増が患者減に直結
療養病床では今後、給食委託業者との関係に変化が生じることになる。昨年の制度改正に伴って、介護保険施設では食事・居住費が入居者負担に切り替わったため、食費の負担額に見合うだけの満足度向上を図らなければならず、費用低減とともに質向上に向けた交渉も必要となる。これに対して今回の医療制度改革では、一般病床の食事・居住費の患者自己負担化は見送られたため、今後は給食委託費用の低減が単純に進むと見られる。一般病床を持つ施設と介護療養病床を持つ施設の間では、給食委託企業との交渉の内容が異なり始めている。
介護保険施設と同じく医療療養病床では、今秋から食費や居住費が患者自己負担となる。医療面で差別化が図れない療養型医療施設では、給食等の負担増が患者減少に直結する可能性があり、患者の獲得方法を見直す動きが出始めている。

◆ 人事面で課題抱える国立病院

独立行政法人国立病院機構(NHO)の病院では、人事面で課題を抱えている。人的サービスを提供する医療・介護分野では、人件費を安易に削減せず、優秀な人材を厚遇する人事制度を導入するケースが増えている。これに対してNHOの病院では、このような人事政策はとれないままだ。事務部門の人事異動にも医療事務の専門性を無視したケースが多く、経営環境が厳しさをますなかで具体的な改善活動を支援できずにいる。
また急性期病院では、機能の明確化が課題となる。この1年間で、急性期病院がDPCへの参加を表明するケースが急激に増加した。平均在院日数を短縮すれば増収が見込めるためだ。一方、増収対策として、一般病床を回復期リハビリ病床や亜急性期病床に転換できたのは、結局ある程度人員体制が整った病院のみである。一方、厳しさが増すなか、赤字の自治体立病院は、存続をかけた中長期計画をこぞって作成し始めた。しかし現実には外部コンサルタントを利用して現状分析や中長期計画作成を進めるケースが多いのが実態である。  大学病院、慢性期病院、急性期病院、自治体病院それぞれで経営改善施策は異なるが、数年前と比べて動きが活発になっているのは事実だ。これも小泉構造改革の影響であろうか。

 

株式会社日本医療企画 発行 「Phase3」 2006年2月号より転載

雑誌掲載情報

未来のDPC負け組病院の姿をみる

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

DPC包括制度が導入されてデータを提供している病院は240病院を超えた。また新たにデータの提供希望病院を含めると400病院にもなる。9000病院のうちの400病院と考えれば、たいしたことはないと思われるが、急性期病院の競争激化は、患者の奪い合いとなって予測される。
その多くの病院が現在20日以下の在院日数となっているが、数年以内に10日を切るようになるであろう。2倍の患者を獲得する病院と、奪われていく病院に分かれる時代である。

さて、同様の現象は1983年にDPC/PPSが導入されてから、病院の淘汰と病床数の減少となって現れた。そこで、負け組みのアメリカ・テキサス州にある公立病院の事例を紹介する。1900年の開設から長い歴史を持つこの病院は、徐々に急性期医療を拡大するに従い増床し、ついに400床の病院となった。その病院は日本の再整備病院のように、大都市の中心からは少し離れた郊外に建てられた。
しかしながらDPC/PPSの導入と競争激化で、ついに5年前には170~180床にダウンサイジングされた。競争激化のなかで人員削減、コスト削減が当然のように行われてきた。使わなくなった病棟は閉鎖した。

一部打開策として使わなくなった病棟を改築し、日帰り手術センターを開設。2年前には23の手術室数で年間6000件以上の日帰り手術を実施していた。手術件数をさらに増やすため、近隣の外科医の満足度改善に注力し、手術のスケジューリングを改善、体制を整えてきた。また、患者満足度は退院後2日以内に電話とメールで確認し、その改善に努力してきた。地域への貢献として10の救急治療室に9人の医師を配置し、年間4万7000人の患者を受け入れる努力をしてきた。患者のプライバシー保護のため、声が漏れないように改築し、満足度の向上にも努力してきた。さらに、この病院では40人の臨床薬剤師を配置し、治療に最適な薬剤情報の提供を積極的に展開し、この地区ではもっともサービルレベルの高い病院として有名であった。

院内の脳外科は人員不足で、救急患者は他院に送られることが多く、循環器内科、心臓血管外科も他の病院のほうが強くなっていた。整形外科と外科は病院の看板として存在していたが、手術件数に大きな変化はなかった。内科は多くの患者を治療していたが、科としては赤字であった。
ここ数年間は病床利用率も改善されず、ついには120~150床程度の利用となり、赤字額も徐々に増加した。そこで経営陣は100人に及ぶ人員削減案を検討したが、受け入れられず、院長、副院長、財務担当役員に当るCEO、COO、CFOの解任が昨年決定した。2005年1月より新たにCEO、COO、CFOを院外からと院内の昇格で任命し、改革を推進することとなった。
前後して、この病院と1kmと離れていない場所に、民間の新設急性期病院が開設されたことに伴い、病院と契約していた医師がこの競合病院でも診療するようになり、患者は徐々に奪われていった。

これらの医師は新設病院の施設および設備が、この病院よりも優れているがために、患者の治療を他院で行っていると答えている。
しかしながら、臨床薬剤師のサービスを含め、この病院の運営システムで優れているものも多く、多くの医師はこの病院でも診療をつづけている。従って医療の質での差別化は困難となってきた。新任のCEOは職員全員に当面、大きな人員削減はしない旨を伝え、赤字の原因を探るために、情報部門の責任者CIOに分析を依頼してきたが、明確な分析結果が得られなかった。そこで他院からヘッドハンティングした新たなCIOを獲得し、分析を指示した。その結果、内科の主な診療で赤字となっていることが判明し、その改善を急いでいる。

また医師たちの不満の原因を探るために毎週、医師と面談した結果、麻酔不足により手術が予定通りにできず、他院で手術を実施していることが判ったため、2人の麻酔医を採用した。さらなる患者と医師の満足度向上のため、専任者に原因の分析と改善を支持した。
さて、あなたならどのような手を打ち、打開するであろうか。このような状況が近い将来に日本のあちこちで起きる可能性があるものと思われる。

 

株式会社日本医療企画 発行 「Phase3」 2005年8月号より転載

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入院患者獲得の受難時代とDPC

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

DPC包括制度に意思表示した病院は3年目にしてすでに240病院を超えた。日本医療機能評価機構も同様であったが、診療報酬に組み込まれるまでは、ほんのひと握りの医療機関が受審しただけだった。そこで特に国立医療機関のみで運営が開始されることが多いが、いったん診療報酬に組み込まれると一気に拡大する。


さて、DPC包括制度下では、他の優秀な病院と比較(ベンチマーキング)したいとの要望が多くなる。たとえば同じ疾病の在院日数を優秀な他院と比較したいという要望である。収入、経費、利益を分析すると、赤字の場合が多々ある。それを解消するには検査、投薬、手術病棟管理などさまざまな改善ポイントがあり、その体験学習を病院職員に実施すると、「この患者は特別であった」とか、「カルテには十分に記載しなかったが感染が疑われたケースだ」という話になり、それだけでは結局何も改善がされないという。

海外の事務部門のディレクター(日本では部長クラス)であれば当然、データを見せて改善を要求するが、なぜか日本の事務部門ではそれができないという。 ある病院(A病院)で、コンサルタントが実際に医師たちに改善のポイントを指摘し、改善を実現して見せた。すると、「それは外部コンサルタントだからできるのだ」と言う。そこで比較のために、A病院で在院日数が12日である症例が、優秀なB病院では7日にとどまっているとのデータを見せる。治療成績も内容も、B病院とさほど変わらないので、A病院では、病床稼働率を維持するためにこうなっているのが明白である。

さて、1カ月の退院患者の3分の1をベンチマークして比較したところ、B病院の在院日数は6日なのに対し、A病院では11日であった。その差5日。試算では、もしもこれら3分の1の患者の在院日数がB病院と同じ6日になるように体制を整えた場合、A病院では毎月200人以上の新患の獲得が必要という結果になった。

在院日数6日であれば、欧米、アジアの急性期病院の在院日数と同程度になる。やっと国際的な比較ベンチマーキングができるかと思いきや、さにあらん。この5年間の改善で毎月200人の入院患者がやっと獲得できるようになったばかりで、さらに200人の新規入院患者の獲得は非常に困難との認識となった。1カ月すべての退院患者を比較すると1,000人以上の患者を新たに確保しなければならなくなる。とすれば、近隣の500床規模、在院日数15日の病院の患者をすべて奪うことと同じになる。 これがDPCを導入した240病院で進むと、それぞれの病院に隣接する数百床規模の少なくとも240病院で、患者獲得が困難になる。


それでは、患者を奪う側のDPC病院はどうか。入院患者には、外来患者から入院に移行する患者、救急患者として来院し入院へと移行する患者、紹介患者として来院し入院に移行する患者の3通りがある。質の高い医療を提供している病院であれば外来患者は増えるし、救急患者も増えるであろう。したがって、これらの患者から入院に移行する患者の比率は、何も手を打たなければ変わらない。たとえば1,000人の患者が来院し、そのうち10%が入院患者に移行するのであれば100人であり、2,000人になれば200人になるはずである。外来と救急の患者を1,000人から2,000人と倍増しても入院患者は100人しか増えない。

さらに900人を獲得するには、紹介患者から得るしかない。紹介患者500人の20%が入院患者に移行すると100人である。900人を獲得するには4,500人の紹介患者が必要となる。患者を急激に吸い寄せている病院に、近隣の病院が現状の5倍の患者を紹介するとはどう考えても現実的ではない。患者を新たに1,000人獲得するのが無理ならば、おそらくダウンサイジングするしかない。DPCを推進する病院自体に待っているのは、患者を獲得できない限り病床の削減を決断するしかないという現実だ。日本から、1,000床規模の急性期病院や大学病院が消える日が来るかもしれない。

 

株式会社日本医療企画 発行 「Phase3」 2005年5月号より転載

雑誌掲載情報

民間病院で包括制度(DPC)を採用するメリット

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

今回は22種類のまったく同じ傷病名で出来高と包括支払制度の場合で収入を比較してみた。

それぞれの傷病で入院から退院までの人件費・薬剤費・材料費・その他経費を算出し、それぞれ収入から差し引いて利益を算出した(下表参照)。傷 病名はDPC分類のため、ICD‐10コードと傷病名、手術名、合併症の有無などを記載した。傷病の出来高収入の合計は1,947万円で、包括収入の合計 は2,030万円であった。「出来高収入」の合計を100%とすると、「包括収入」の合計は104.3%。収入が4%以上増加することがわかる。

「出来高利益」の合計は13万円となった。これは出来高収入の合計の0.7%。急性期病院の利益率がいかに低いかがわかる。一方、包括利益の合 計は100万円。出来高利益の合計を100%とすると、749.7%とほぼ7.5倍に増加する。また「包括利益」の合計100万円は包括収入の合計 2,030万円に対し、5%と大きく改善される。国内の優良企業の利益率を10%~20%とすると、医療ビジネスがいかに儲からないかがわかる。医療関係 者の献身的な活動により成り立っていると言っていいだろう。

さて、包括支払制度では、在院日数を短縮すると1日当たりの収入が増加するため、DPCを導入した病院は在院日数が短縮する。短縮が難しい患者が多いと言われる大学病院ですら、2003年から04年で3.1日(22.4日→19.3日)短縮している。

ただ、すべての傷病で包括収入が増加するわけではない。たとえば「M169変形性股関節症、臼蓋形成手術」では収入が1.4%減少し、 「D126大腸ポリープ、内視鏡的結腸ポリープ・粘膜切除術(その他)」では、3.4%~5.6%減少する。「I200不安定狭心症ステント、合併症な し」では、出来高で11万円の利益があったが包括利益では18万円程度の赤字になる。また「C780転移性肺ガン、手術なし、入院治療」では包括収入が改 善されたものの31万~45万円の赤字。同じ分類の転移性肺腫瘍で手術を行った場合の「C780転移性肺腫瘍、肺悪性腫瘍手術」では34万円~38万円程 度の利益となる。「I200不安定狭心症バイパス手術」では包括収入が改善されたものの、130万円の赤字である。二百数十万円の収入に対して百数十万円 の赤字だから、患者を治療するほど赤字額が増加するわけだ。

今回は、DPCの傷病ごとに、収入が増加したもの、減少したものがあることを示したが、総じて収入が改善し、経費が同じであれば利益は大きく改善する。経営的に大きなメリットを享受できると考えると、早期導入を検討する必要があろう。

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株式会社日本医療企画 発行 「Phase3」 2004年9月号より転載

雑誌掲載情報

DPC導入による収入増加の落とし穴

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

弊社のアメリカ人コンサルタントが以前、所属していた病院とグループ病院では80年代、DRG/PPSの下で病院の収入は増加し、利益も大きく改善した。このほか在院日数短縮、経費削減、業務効率の向上も実現し、患者獲得のためにさまざまな保険組織と契約を締結した。

彼が体験したことが日本で起き始めている。弊社もこの2年間、大学病院でDPCの分析と改善を実施してきた。その結果、制度の導入前と導入後では大きな違いが出た。

彼が体験したことが日本で起き始めている。弊社もこの2年間、大学病院でDPCの分析と改善を実施してきた。その結果、制度の導入前と導入後では大きな違いが出た。

特定機能病院では、DPCの包括制度のもと、あらゆる高度な医療を必要とする患者に医療を提供している。経済的インセンティブでは在院日数短縮が実現することなどありえないとの意見があったが、弊社がコンサルティングした国立大学病院でも在院日数は短縮した。また過去に携わった、あるいは関係を持った5つの大学病院でも在院日数は短縮し、医業収入は増加した。経済的インセンティブが在院日数短縮に効果を示したことをはっきり物語っている。

医療費の支払い側から見ると、期待していたのは在院日数短縮と医療費低減であったが、医療費は逆に増加したのは皮肉でもあろう。

厚生労働省は賢い。入院期間のうち、収入の高い期間の短縮やDPCの係数操作などで、医療費の低減を遅かれ早かれ実施するであろう。収入が増えると安心させて導入を促し、後から首を絞める魂胆が見え隠れする。


同じような包括払い制度が導入された韓国の大学病院では、一般病院にしてやられた感もある。同じ疾病分類の患者のうち、併存症や合併症などで治療により多くの費用がかかる患者を大学病院に送り、一般病院では在院日数の短くてすむ患者の治療に重きを置いた。その結果、大学病院のなかには大幅な赤字に陥り、出来高払いに逆戻りしたケースもある。そのような現象が今後、日本で起きないとも限らない。日本の大学病院もDPCを導入する一般病院も、高コスト体質の改善に今のうちに着手するべきであろう。

さて、DPCの分析を2年間行った結果、まったく同一傷病であっても同じ在院日数の患者は一人もいなかった。その大学病院のなかで、同一疾病で在院日数が最短の患者と最長の患者では、その日数に1.7~5.1倍の開きがある。手術日までの在院日数もまちまちで、経費もまったくばらばらである。このように、医療の標準化はまだまだなされていないのが現状である。特定機能病院では、医療の標準化についても医療経費削減についても、まだまだ改善の余地はある。これは一般の急性期病院でもまったく同様である。


これらを考慮すると、日本の医療の現場では医師の好きなように好きなときに好きな方法で、医療サービスが提供されているとも言える。世界最高の品質を誇る日本の生産現場のように、標準化とコスト削減がなされるならば、日本は最高の医療を最も低価格で受けることができる国になるはずである。厚生労働省と医師会が言う老齢化による医療費の高騰を抑える余地は相当あるといっても過言ではない。

さて、医療現場では、患者のために最高の医療サービスを提供しようと日々、真に努力している医療人がいる。この人たちには今すぐにDPCの制度の導入を勧める。ただし、医事のシステムとしては出来高払いと包括払いの両方を持つことになるので、医事課のキャパシティーに自信のある病院にしか勧められない。というのも、現状しばらくは増収が見込めることと、この包括払い制度のなかでは、ある程度難しい状態の患者を治療することが、より高収入になるからである。この増収とコスト削減による利益の増加で、優秀な人材に十分な報酬を用意し、更新すべき医療機器や設備に投資することができる。

マーケティング的に言うところの、先駆者利益を享受することができるはずである。いまが先手必勝の時期とも言える。

 

株式会社日本医療企画 発行 「Phase3」 2004年6月号より転載

雑誌掲載情報

手術数が減少しても黒字化する方法:第3話

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

今回は術前と術後の利益をどのように改善することができるかを説明する。

病院の外科医に面談すると、できるだけ外来で術前の検査を済ませていると回答する方と、病床の稼働率を考慮して、できるだけ満床になるように患者を入院させているという方がいる。どちらの方が利益的に貢献するのかを明らかにしてみたい。


通常、検査を入院で実施する場合には、入院基本料+加算+検査料などが収入源となる。ただ術後のように薬剤の使用は多くないので、1日当たりの収入の総額は少ない。一方、人件費、減価償却費、光熱費、維持管理費など、病棟における1日当たりの経費は収入を上回るケースが多々ある。検査目的での術前入院は赤字となる場合が多く、検査はできるだけ外来で行うか、あるいは手術直前に検査をすることが利益の改善となる。

病床稼働率を改善するために、特に必要もないのに入院させているのは赤字の増加を招く。患者の個人負担金の観点からも、無駄な入院は排除されるべきである。また、手術前に入院させて一時退院で帰宅させる場合があるが、収入がない上に経費のみがかかり、結果として赤字に陥る典型的なパターンである。

術前入院を減らす上で、同じ術式での入院患者の入院日から手術までの日数を全例ピックアップしてみると良い。たとえ外来でなるべく術前の検査を済ませるようにしている外科医であっても、手術までの日数にばらつきが結構見られる。その原因としては、緊急手術が突如入ってきた、麻酔医の手当てができなかった、手術室が空いていなかった--などがあげられるが、これらは手術予定のスケジュール管理の未熟さが原因である。

トヨタ自動車が実践している“ジャスト・イン・タイム”の手法では、必要な部品を必要なときに運び、必要な技能をもった人員が最も短時間で生産できるようスケジュール管理している。もちろん工場でも、天候・渋滞・事故・不良・欠品など、生産スケジュールを阻害する要因はいくらでもある。常に予定生産量を確保できるのは、こうした阻害要因を予測し、スケジュール管理を徹底しているからである。優秀な企業から学べることは、いくらでもある。

次に、術後の利益を改善するためには、基本的には在院日数短縮がポイントとなる。術後に集中治療が必要な場合に利用されるICUでは、加算に伴い収入は増えるが、集中治療に要する人員体制や装備類の購入費、減価償却費、保守・修理費などの経費がかかる。したがって、本来は外科病棟に戻せる患者をICUで看ることは、赤字幅を増大させることになる。

在院日数を短くするために最初に着手できる方策は、同じ疾病での手術症例のばらつきを改善することである。在院日数の最も短い症例と全ての症例で、平均在院日数と最も長い在院日数の症例を比較すると、在院日数が2~4倍も異なっていることが多々ある。最も短い在院日数の症例との違いは、計画的でない退院指示である。並存症、合併症がなければ退院計画に基づき退院日を決定することができるはずである。また術後の抗生剤も異なったものを使用し、使用期間も異なる場合が多い。医療の標準化が叫ばれているが、クリティカルパスも含めてまだまだ改善の余地は多い。

一方、病棟での在院日数のコントロールでは、医師の指示待ちとなっているが、医師はおおよその退院日数の指示を出し、看護師が患者やその家族の都合を確認し退院予定患者の調整を行い、退院日を決定すると毎日の病床稼働率をコントロールすることができる。これによる利益の改善度は非常に大きい。

定額制払い方式(DPC)が導入された大学病院では今後、薬剤の使用の標準化も利益の改善として大きく寄与することとなる。また、多種多様な疾病を診るがために、非常に困難であると言われていた在院日数の短縮も、DPC導入以降は大きく改善している。経済的なインセンティブによって、このように難しいはずの改善が進むことは興味深い現象である。

株式会社日本医療企画 発行 「Phase3」 2004年3月号より転載

雑誌掲載情報

手術数が減少しても黒字化する方法:第2話

 

株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

前回は手術の効率的な運営方法を組み立てるときの指標を示した。実際に400床から900床程度の急性期病院で実施したケースでは、最初の約8カ月で500~600症例が増加し、1億5,000万円から2億5,000万円の増収となった。8カ月の後半の1~2カ月では月間5,000万円程度の増加となる。

ある東京の私立大学病院では、数年前にアメリカの大学病院を見学するため訪問した。当時この私大病院の年間手術件数7,000例に対し、同規模のアメリカの大学病院では2万4,000例であったことに愕然としていた。現在この私大病院では少々改善したものの、年間8,000例を超えたに過ぎない。人員体制などアメリカとの違いもあるため、一概に努力不足だと非難することはできないが、大学という性質から、若い外科医を教育するためにも多数の手術を安全に行うことが望まれる。

民間病院ではたった8カ月で手術数を15~20%増加させ、医師の習熟度も成功率も改善している。大学病院で数年かけて15%の改善では、改善のスピードが遅すぎると言わざるをえないし、外科医の習熟度を高めることも難しい。

それでは手術で黒字化する方法の第2話として、いくつかの手法を紹介しよう。まず、術式ごとのコストの改善である。大きく人件費の改善と材料費の改善に分けられるが、第1話で紹介したように手術の回転が効率化し短時間で手術が実施されると、関与した医師、看護師、麻酔医の人件費は減少する。同じ術式の場合でも医師によって効率の悪い手術が行われている現状の是正には、医師ごとの手術の収入と手術室利用時間と経費を表にして手術室に張り出すことによって競争を生むことができる。同じ診療科の外科医同士だけではなく、たとえば整形外科医と脳神経外科医の異なる診療科の椎間板ヘルニアの手術を比較するとより外科医間の競争的な改善がされる。

把握が難しいといわれる経費の分析方法について、経費は人件費、材料費(薬剤+手術材料)、手術室共通運営経費に分類する。手術室共通運営経費とは、手術室の運営上に必要なクラーク人件費、事務経費、保守経費、消毒剤など、ある特定の手術の経費としては計上できない共通の必要経費をいう。人件費と手術室共通運営経費は、手術時間ではなく手術室利用時間で振り分ける。麻酔部を収益部門としてではなくコスト部門としてとらえる場合には、この方法を採用する。ちなみに医師の1時間のコストは通常2,500円~9,000円程度である。

次に材料費を手術ごとに把握する。手術室では術式ごとに使われる薬剤と材料のリストが作成されている(術式別材料リスト)。たいていの場合、このリストには薬剤と材料の購入価格は記載されていないし、使用されたかどうか記載する項目すらない。また麻酔のために使った薬剤などの記録もない。したがって、まずこの術式別材料リストに麻酔材料も含めたすべての材料の購入金額を記入し、手術で使用した場合にはチェックができるようにする。さらに診療報酬のためのレセプト用の番号も事前に記入しておく。このリストは毎回印刷したものを用意し、術後に使用材料を記入し、材料経費とレセプト申請用として利用する。これらの準備によって手術ごとの薬剤と医療材料のコスト把握が可能になる。

手術ごとのコストの改善では、同じ診療科内医師の術式ごとのコストの比較表を全員に公開することにより改善を促す。また手術部内での比較では診療科ごとの手術の収入と経費を比較したデータを公開することである。この際、最も優れた部分と最も劣った部分を開示すると効果的な改善が進む。これは自尊心による競争意識による効果だと考えられる。これらのデータの開示を実施すると、6~8カ月で手術の10~20%のコストが減少する。
第3話では術前術後の利益の改善の仕方を記したい。

株式会社日本医療企画 発行 「Phase3」 2003年12月号より転載

雑誌掲載情報

手術数が減少しても黒字化する方法:第1話

 

2003//07/16
株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

病院運営実態分析調査の2002年6月の報告を見ると、最近数年間の手術数は病床の規模に関わらず減少しており、特に02年は前年に比べて著しく低下している。急性期病院でも手術数が減少し、減収に陥る病院が多く見受けられる。

そこで手術部門の黒字化のポイントを記してみたい。当然ながら、いかに安全で短時間で効率的に手術を実施できるかが必要である。改善が実施されていない病院の場合、手術室が手術のために利用されていない比率は50~75%であった。海外の病院では28~34%である。改善をした国内の病院では、この比率が21%まで下がり、手術を実施できるキャパシティーは2~3倍に拡大し、収入面でも数億円の効果が出る。

改善のためには、手術の予約がどの程度正確に実施されているか、スケジューリングを調べてみるとよい。どの程度患者が予定時間どおりに入室し、退出しているのかを把握すると、いかにずさんな計画だったかが分かる。予定通りに手術が実施されなければ、その間の収入はなく、人件費などのコストのみが発生する。予定が延びれば残業代などの余分なコストも発生してしまう。

日本の病院では、外科医も外来業務を行うという理由で、午前中の手術が極めて少ない場合が多い。しかしながら看護師も麻酔も助手も朝から待機しており、コストが発生している。

そこで第一に、午前中の最初の手術予定で実際に予定時刻に開始されたかどうかを確認してみると良い。本来あるべき姿は最初の手術であれば、予定の変更の可能性は限りなく少なく、100%近い確率で予定時刻(±15分以内)に開始されるべきで、80%以下ならばずさんな状況と言えるであろう。患者の様態が著しく異なるために手術が開始されないのは仕方ないが、外科医、麻酔医、看護師の用意ができずに開始が遅れたという理由が非常に多い。

ちなみにセブンイレブンでは、売り切れによる売上機会の損失をなくすために、物流では1日数回の配送を実施している。少なくとも顧客が欲しいものを欲しいときに提供できるようなプロセスが組み立てられている。

それでは、どのようなプロセスに分解し状況を分析し改善につなげるのかを記してみたい。患者の入室から退室までの時間短縮のためには、次の5つのプロセスについて改善策を検討することが必要になる。

・患者入室時間から麻酔開始時間までの短縮
術前評価、麻酔システム、どのようにして患者の入室が実施されるかを見てみると良い。

・麻酔開始時間から手術開始時間までの短縮
手術情報、スケジューリング、執刀医と麻酔医のプロトコール、看護チームや手術材料の準備方法を再検討する。

・手術時間の短縮
一番困難だと考えられるが、その改善には、同じ術式で執刀医別に手術時間を比較したデータを示すと、外科医同士で術式の手順、器械出し手順の変更などの検討で手術時間が短縮されていく。

手術終了時間から麻酔終了時間までの短縮/麻酔終了時間から患者退出時間の短縮
どのような手順が、どのような目的と理由で設定されているかを確認してみると改善のポイントが 自ずと浮かび上がってくる。 データや臨床上の優位性などの理由ではなく、慣習として実施していることが意外と多い。

 
最後に患者が退出してから次の手術までの準備としては、手術終了情報の連絡、清掃、消毒などをいかに短時間で実施できるようにしているかが鍵となる。それぞれの工程時間を測定すると、改善意欲が高められる。

このようなプロセスの見直しによる改善効果は、たとえば、勤務時間内の手術室の利用率が80%を超えるかどうか、最初の手術の開始確率が95%以上であるか、一症例の予定時間の精度が80%以上に改善できているかなどを測定することで確認する。更なる黒字化の改善方法は第2話以降に譲りたい。

株式会社日本医療企画 発行 「Phase3」 2003年9月号より転載

雑誌掲載情報

DPCで変わる急性期病院の意識と経営

 

2003/4/17 
株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

DPCという包括医療制度が特定機能病院で平成15年4月から始まった。慢性期や介護等ではすでに定額制度は始まっていたが、日本版のDRG/PPS(定額制度)としてのDPCがいよいよ急性期医療の分野に到来したといえるであろう。

それでは1983年から米国で始まったDRG/PPSが病院にどのような影響を及ぼしたのかを見てみると、病院数は毎年のように減少し、1983年には100万床以上あったものが1995年には90万床を割っている。病床利用率も下がり1995年には60%を割っていた。さらに在院日数は非常に短くなり、現在では5日前後の平均在院日数になっているところが多い。

病院の生き残りをかけた改革が負け組みを作ったのは確かであるが、米国の勝ち組の病院は定額制度の下で利益が増加し、利益を再投資に向け圧倒的な強みを発揮してきた。その結果、勝ち組は病院の買収やグループ化を促進し、強大な組織になったものが多い。面白いことにDRG/PPSを導入したが、米国の医療費は減少していない。

日本でもまったく同じことが起きるであろうと予測している。勝ち組の病院では定額制度の中、低コストで医療を実施する努力を継続し、利益は増大する。利益を更に、高度で高質な医療を構築するための投資に向け、地域医療支援病院などを獲得して地域住民にも認知度を高めていくであろう。

それでは米国で勝ち組になった病院の改善策を紹介しよう。

疾病ごとの定額制になったため、収入と経費及び損益分岐点の分析を開始した。現実には医療収入の情報は定額制のために簡素化されたが、経費の情報は膨大な情報量であり、そのデータをアクセスやエクセルのデータに変換し分析を開始した。

人件費、薬剤費、医療材料費、委託費、修理費、事務用品費、その他経費を支出簿の経理項目ごとに分類し、入院にかかる経費をはじき出した。この分析から以下の改善策を講じた。

1.間接部門(手術部、ICU、放射線部、検査部、事務部など)の1日にかかる経費が明確になり、黒字化への最低限の収入の目安とし、これ以上の収入になるようシミュレーションを実施した。

2.在院日数を何日短縮すると黒字化するかが明確になり、具体的な短縮のためのターゲット日数を設定した。

3.赤字と黒字の疾病が明確になったため、戦略的に紹介患者獲得疾病をきめ、地域に広報活動を実施し患者を増やした。

4.疾病治療のための直接費である、薬剤費や材料費で経費の高いものを明らかにした。標準化が可能で経費節減できるものには医師にインセンティブを設定し促進した。

5.共同購買によって経費の節減が可能なものはメーカーと購買契約を締結し経費削減を実施した。

6.委託をしていた業務を廃止し、院内職員で実施し経費を削減した。

7.業務効率を向上するために優秀な人材をヘッドハンティング、あるいは優秀な学生をサマーインターン制度で採用活動を強化した。

勝ち組の病院では、優秀で意欲的な人材を獲得し、更なる改善へと進んでいった。結果として事務部門でも医療職の人材の中でもMBAやMHAの経営修士を持つ人材を獲得できた。

さて、日本では同様な変化がすでに起きている。医療法人では有名ないくつかのグループが共同購買を促進している。不況のもと他業界の管理職を積極的に病院職員として採用している。また勝ち組を目指す民間病院ではすでにDPC分類で黒字化の方法を確立しているところもある。

このように、変化を先取りして改善策を講じる病院では、本来の目的である、患者負担の少ない、満足度の高い医療を提供するため、他の病院よりも速いスピードでの変化を達成しなければならないと経営層も職員も意識を新たにしている。

翻って、DPCによる包括医療の開始であたふたとしている特定機能病院も多々あるのは情けない。制度変化があるときには、制度よりも速い自己組織変革が必要である。自己変革のスピードが速ければ、職員の学習量は増加し、組織が活性する。勝ち組になる絶好の機会到来として捕らえるべきである。

我々が関わっている特定機能病院では、すでに経費分析を開始し、戦略的な改善策を策定中である。もう1~2年すると、特定機能病院の中で患者に選ばれるトップ10の雌雄が決定しているのではないかと思われる。

 

株式会社日本医療企画 発行 「Phase3」 2003年6月号より転載

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日本の医療の利点と改善すべきポイント

 

2002/4/17 
株式会社 サイプレス 
代表取締役 伊藤雅教 

 

日本の医療制度について「不備、未熟である」「海外から比べても劣っている」という論調が多く見受けられるが、偏った見方である。この経済状況が悪いなかでも、医療費のGDP比率はまだ1桁台である。500~600兆円規模の経済活動に対して高々30兆円という水準は、諸外国に較べても低い。

日本と比較すると米国では、1人当り3倍近くの医療費を必要としているし、GDP比率でも2桁の状況である。また、保険を持たない人々が5,000万人近くいる。つまり医療を必要としていても5人に1人は簡単には受診できないのである。さらに開業医に診てもらえなければ、希望した医療機関に直接赴くこともできないのが実情である。

これに対して日本の国民皆保険制度では、いつでも誰でも安心して病院にかかることができるし、医療機関も患者本人の意思で決定可能だ。その上で、諸外国と較べても低額な医療費で済んでいる事は驚くべきことである。しかしながら、経済状況の低迷、急速な高齢化、医療費負担の増加など、環境が大きく変化するなかで、医療提供サービスのさらなる改善が望まれているのは既知のとおりである。特に次のような項目では、改善が急がれるべきだろう。

まず、患者や家族が治療方法や最適の病院あるいは信頼できる医師の情報などを的確に得る方法がない。インターネットなどで調べることは可能だが、ある程度の医療知識がなければならず、簡単に名医や満足度の高いサービスなどの情報を入手できる手段がない。加えて、患者や家族が治療を受けている医療機関あるいは医師の医療体制を、セカンドオピニオンとして情報を簡単に得ることが難しい状況の改善も必要だろう。

また、診療録開示が進みつつあるが、患者・家族が要求しても簡単に開示がされず、申請書への記入や、医療機関が認めた場合に限られるなど、制限が多いのが実態である。診療録そのものも記入方法が統一されておらず、患者や家族が読んでも判別や理解が難しいものが多い。開示の推進体制と診療録の記述標準化は、電子カルテとともに推進が望まれるところだ。


一方、EBMに基づいた医療が叫ばれているが、医療サービスの質を比較するデータ自体の存在があまりにもみすぼらしい。治癒率、5年生存率、再入院率、死亡率など、さまざまな角度で比較するための(ベンチマーキング)データベースの構築が望まれる。また、リスクマネジメントのデータベースも構築できていないので、どのようにプロセスを改善したらリスクがどの程度軽減できたのか、簡単に知る方法がない。現実には医療従事者が研修などに参加して情報を得ることが多いが、院内の改善のためのナレッジデータベースとして使えるようなシステム構築は急務だろう。

「国民医療費が諸外国と較べ低い」と前述したが、これは医療従事者の献身的な働きによるところが多い。医師や看護婦の研修体制の見直しが検討されているが、財政的に貧困な医療機関では、十分な研修体制への費用補助がされていないのが現状である。これは政府が医療に対する価格にキャッピングをかけていることが原因と考えられる。良質な医療サービスを提供している場合には、それなりのインセンティブを付加するなど、弾力的な価格方策の構築は不可欠だと考える。また、良質な医療が提供できるならば、その内容を詳細にアピールできるような広告規制緩和がなされ、患者に分かりやすい医療情報の入手が可能にならなければならない。

さらに、救急体制に十分な医師・看護体制を整えると赤字に陥るため、民間病院ではその埋め合わせに、人数の多い外科や内科の医師が肩代わりをしているケースが多い。小児救急を含め公的な資金援助は必要だろう。

このように改善点を挙げれば切りがないが、やはり日本では安心な医療を受けられるのは事実であり、日本人でよかったと感じられる所以である。

 

株式会社日本医療企画 発行 「Phase3」 2003年3月号より転載

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