雑誌掲載情報
未収金回収に対する認識のギャップ
2002/10/18
株式会社 サイプレス
代表取締役 伊藤雅教
最近ある病院で未収金が話題になった。その金額は決して無視できるものでもなく、件数も月間で数百件に上る。
「持ち合わせがなかったので、次回来院時に支払うと約束したが、果されていない」「救急だったので現金の持ち合わせがなかった」「患者の親戚で誰が支払いの責任を持つのかが決まっていない」「外国人が完済する前に帰国してしまった」「住所不定者に治療したが支払がなかった」
さまざまな理由が挙げられるが、さてその対策はというと、督促状を送付したり、電話で事情を聞きながら支払いを促したり、一定期間が過ぎても支払われない場合は法的な手段をとると通告したり。それでも「院内の職員はいろいろと手立ては取っているのですが、未収金として残ってしまうのだからしようがない」と言う。
未収金を減らすために、カード決済を導入する病院もあるが、デビットカードは一般的にもあまり流通していないので、有効な手段となっていない。クレジットカードの場合は、黒字病院の場合でも経常利益が1%未満、特に優良なケースでも5%程度というなか、数%の手数料負担は病院の収益を圧迫してしまうのが現状で、なかなか全面的な採用には至らないようだ。
こうした未収金問題の背景には、“医療は赤ひげ”と言われた時代から、「ある時払いの催促なし」という習慣があったからだろうし、医療で利益をあげることを良しとしない世論も一因だろう。確かに昔は農産物や水産物での代納があったかもしれないが、それとても、ある程度の売上と利益が確保されていたから許容されていたはずであり、現状ではその許容範囲は非常に限られている。
企業では、売掛金の回収は死活問題である。営業は受注製品を発送し請求書を送付した後に、入金予定日を過ぎた案件について、100%の代金回収という業務が当然要求される。また未払いの場合は、製品の注文を受けない。そのため、信用不安があると現金取引のみとなったり、売掛金として残っている店頭在庫は全て回収されてしまう場合すらある。
信用不安の情報を入手した途端に、取引先の倉庫、店内にある全ての製品が回収される。ただしその際に、取引先の社長から懇願されるなどによって、個人保証が入れば、ある一定基準までは取引を続けたり、また、回収までの日数と売掛金の金額の大きさによっては、保証金を求めてその範囲内で取引をする場合もある。
こうした企業の対応策は、血も涙もない冷徹な行為に見えるかも知れない。しかし、資金が回収できなければ従業員に対する支払いもできなくなるし、自社が潰れてしまう危険を回避するためにも、必要な手段なのである。永続的な経営の必要性が、病院についても論議されている割に、未収金問題が解消されない根本的な理由は、回収に対する基本的な認識が足りないからではないか。
最近、病院の未収金回収を専門で実施する会社が業績を伸ばしている。プロに任したほうが確実ということだろうが、病院が本来行うべき回収業務を徹底していれば、こうした業態は発生しなかったはずだ。回収に対する認識の違い、あるいはその甘さによって、ビジネスチャンスが生まれてくるのは、ある意味で面白い。
海外では、支払能力のない患者をある一定以上治療すると税金が免除されるところもある。日本では、民間病院であっても、患者が運ばれれば治療を行わなければならない。国民皆保険の本来意義である、あらゆる国民に医療を提供できる「フリーアクセス」を確保するためには、何らかの措置が必要ではないか。国公立病院に偏向した補助金の不平等を是正するためにも、税金の免除など、行政には是非とも対応策を検討してもらいたいものである。
株式会社日本医療企画 発行 「Phase3」 2002年12月号より転載
雑誌掲載情報
医療分野での情報開示と質の比較
2002/07/15
株式会社 サイプレス
代表取締役 伊藤雅教
医療の分野では最近、質に対しての懐疑的な記事を良く見かけるようになっている。医療事故を隠す体質を暴いている記事や、院内感染を防止する体制が不備であったために起きた事故であると決め付ける記事を見かける。
ただし、ほとんどの医療従事者は患者のためにできうる限りのことをしようとしているのに、このような記事が増えているのは残念である。
確かに、医療分野では、どの病院がどのような医療を提供していて、どの程度のレベルにあるのかを一般の人々が知ることは難しい。またどの医師が良い医師なのかを知ることも難しい。
さらには提供される治療に対してどの程度の金額が請求されるのかを知ることも難しい。
しかしながら、これができていないから医療を提供している人たちが怠っているというのは間違いである。これらは国によって規制されているために一般の人が知ることが難しくなっているのである。
一般産業では、特徴のある機能を持った製品とその価格情報を得ることは簡単にできるのだが、医療分野では診療の特徴や質を広告してはいけないことになっている。また診療の価格は診療報酬として厚生労働省が決定しているために、高度な医療や技術を持っていても価格に差をつけることはできない。ましてやその価格の情報を提供し比較できるようにすることなど許されてはいない。
国民が知りたい質の内容の情報と価格の情報を国が規制しているのはいかがなものであろうか。
この規制を緩和しない限り、新たな医療の正解は生まれないといっても過言ではないであろう。
コンサルタントとして海外を含めた2000病院以上の実際の病院データを入手し、分析した結果、日本の医療分野には情報として開示されているものは非常に少ないのが現状である。
医業収入、在院日数、稼働率、外来患者数、入院患者数、外来単価、入院単価、紹介率など、ある程度開示されているものもあるが、医療の質を比較できるベンチマークのデータやその病院が特徴として持っているベストプラクティスのデータを開示しているものはほとんどないといっても過言ではない。
さらに薬剤のコスト、医療材料のコスト、委託費用のコスト、保守費用のコストなどと、その質を比較できるデータを持っているところは非常に少ないのが現状である。
例えば、我々コンサルタントは各病院の手術を比較し、どの程度の収入・経費・効率と質を持ち、データベースを利用して最高の質になるようにベストプラクティスに向けて改善をするように活動をしている。このようなデータが病院ではなかなか把握されていないし、改善度も測定されていないのが現状である。
例えば細かくベンチマークの項目のいくつかを挙げると
・症例終了から次ぎの症例が始まるまでの平均時間
・患者入室から手術が始まるまでの時間及び手術時間
・手術終了から麻酔覚醒までの時間
・1症例あたりの経費
・医師別経費(同種の手術について比較)
・1症例あたりの収入
・1症例あたりの人件費
・収入に対する経費比率
・1症例あたりの平均作業時間
・術後創部感染率
・手術室利用率
以上のようなベンチマークデータを利用すると院内の効率がどの程度なのかがわかるし改善するべき業務の内容が明確になる。さらには患者にとっていくらの経費が掛かるのかが判るので、将来、医療機関が提供する医療サービス対価とその効果をアピールすることができるはずである。
例えば手術で言えば手術の成績や手術後の5年生存率、再入院率、死亡率などをデータとして用いれば俗にいう“腕の良さ”を評価できるようになる。
さてと、患者にとって質の高い医療サービスの情報が提供されれば、満足度は高くなるであろうし、それなりの価格を払うことにも納得するであろう。
従って、これからは病院自体が情報の開示として広告が十分にできないのであれば、我々のような第三者が情報を提供し、何が良い病院なのかを知らせることができるであろう。またそのように高い質のサービスを提供できる医療施設は新たなサービスの対価を要求できるようになるべきであろう。
これには、厚生労働省の規制に緩和が大きく望まれる。これによって必ずや医療の向上が促進されると確信している。
株式会社日本医療企画 発行 「Phase3」 2002年9月号より転載